
2022年上半期のTOPPOINT大賞で5位に選ばれたビジネス書、『永守流 経営とお金の原則』(永守重信/日経BP)。その中で、日本電産会長の永守重信氏が、次のように述べていました。
ベンチャー企業を立ち上げたとき、経営トップがこれだけは他人に委ねてはいけない、というものがある。それはマーケティング(セールス)である。
(中略)どんなにいい技術を持っていてもモノが売れなければお金が入ってこない。お金が入らなければ企業は存続できない。市場で売れるモノを持っていない企業に対して、銀行もお金を貸さない。これは当たり前の話であるが、この当たり前のことが分かっていない経営者が多いのである。(『永守流 経営とお金の原則』 23~24ページ)
永守氏はベンチャー創業者に向けて指摘していますが、経営トップに限らず、管理職やリーダー職の方にもマーケティングの知識・実践が求められる機会はあります。
そこで今回は、数あるマーケティング本の中から、『売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則』(アル・ライズ、ジャック・トラウト/東急エージェンシー出版部)をご紹介します。
著者は、世界的に知られるマーケティングの戦略家、アル・ライズとジャック・トラウト。本書では、彼らが25年以上にわたる研究の末に導き出した基本的、本質的なマーケティングの法則22項目について解説しています。
ここではその中から、「一番手の法則」と「心の法則」をご紹介します。
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「一番手の法則」は、本書で最初に登場する法則です。この法則について、アル・ライズとジャック・トラウトは次のように説明しています。
マーケティングの基本的な課題はあなたの商品やサービスが他より優れていることを顧客に納得させることだ、と信じている人が多い。その考えは間違っている。
(中略)マーケティングの基本的な課題は、あなたが先頭を切れる分野を創造することである。これが「一番手の法則」である。他に優っていることよりも、先頭を切ることの方が大切なのだ。(『マーケティング22の法則』 12ページ)
では、一番手になれば必ず成功するといえるでしょうか?
直観的に、そうとは言えない気がします。実際、世界(日本)初・業界初などを謳い登場したものの、その後、姿を消した商品・サービスは少なくありません。
この点について、アル・ライズは次のように説明しています。
世界初のパーソナルコンピュータは、MITS アルテア 8800だった。一番手の法則からすれば、MITS アルテア 8800が、パーソナルコンピュータのナンバーワンブランドになっているはずである。ところが不幸なことに、この機種はこの世に存在していない。
(中略)一番手の法則にはどこか誤りがあるのだろうか。そんなことはない。ただ、「心の法則」がこれに修正を加えるのだ。市場に参入するよりも顧客の心の中に最初に入り込むほうがベターなのである。(『マーケティング22の法則』 32ページ)
つまり、市場に最初に参入する「一番手の法則」は、顧客の心の中に真っ先に入り込むという限りにおいて重要であるに過ぎない、と著者らはいうのです。
最近のケースで考えてみると、例えばAppleのiPhoneは、スマートフォン市場に真っ先に参入したわけではありません。世界初のスマートフォンは、IBMが開発した「IBM Simon Personal Communicator」だといわれています。(「世界で初めてのスマートフォン「Simon」をIBMが開発(1994年)」/EE Times Japan)。
コロナ禍で浸透した「Zoom」も同様で、オンライン会議ツールはZoomが登場する前から存在していました。これらの他にも、マーケティングにより顧客のマインドをしっかりと掴むことに成功した後発商品・サービスは少なくないのではないでしょうか。
何かを始める際、私たちはこれまでにない新しいアイデアや、ビジネスモデルを考えようとしがちです。ですが、「心の法則」に従えば、アイデアをどう顧客の心の中に吹き込むかを考えることの方が重要、ということがわかります。
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本書は1994年の発行ですが、紹介される「不変の法則」は今の時代にも十分通用するものばかり。ビジネスで行き詰まりを感じた時、解決のヒントを与えてくれる、マーケティングの名著です。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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