
不祥事が続く日本郵便
2025年6月25日、国土交通省は虚偽の点呼記録作成などの違反行為が確認されたとして、日本郵便に対し、トラックなどの車両を使う運送事業の許可を取り消しました(「国交省 日本郵便のトラックなど使った運送事業の許可取り消し」/NHK NEWS WEB 2025年6月25日)。
日本郵便は、2024年10月にも保険商品勧誘のために、155万人に及ぶゆうちょ銀行の顧客情報を不正にリスト化しており、問題となっていました。
こうした報道を目にして、「ダメな組織だな」と他人事のように考えるのは簡単です。しかしビジネスパーソンであれば、「自社にもこうした“緩み”はないだろうか」という視点を持つことが必要ではないでしょうか。
今回はそれを考える上で参考となる1冊をご紹介します。2007年の郵政民営化に関わった著者が、組織に蔓延する問題を鋭く指摘した2014年の本、『なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか』(宇田左近 著/PHP研究所 刊)です。
郵政民営化の現場で見た「つかみどころのない生き物」
著者の宇田氏は、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、郵政民営化に向けた変革活動に携わりました。この活動において課題解決を図ろうとした時、常に「強い抵抗」が待っていたといいます。
そして、官僚機構出身の責任ある立場の人たちの姿勢からは、「独特の根深い思考様式」が感じられた、と述べます。それは――。
組織全体として外部の関与を阻み、前例踏襲を当然のこととし、内部合理性を好み、強烈な現状維持と既存組織の拡大、そしてそれを改革しようとする人に対しては面従腹背、不作為・先送りという手段で徹底対抗する姿は、つかみどころのない生き物のように感じられた。
(『なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか』 5ページ)
著者は、この思考様式は官僚機構だけでなく、大企業にも見られると指摘しています。
集団思考型マインドセット
郵政民営化の際に見られた抵抗勢力の思考様式を、著者は「集団思考型マインドセット」と呼んでいます。マインドセットとは、思い込みや先入観、これまでの経験から醸成された思考様式といった意味です。
このマインドセットに囚われている人は官民問わずおり、彼らの行動には共通点があるといいます。例えば、「何としても責任回避を図る」「不確実な状況で判断するよりも、先送りを是とする」「人は権限で動くものであり、スキルと自発性では動かないと信じている」…。皆さまの組織では、こうした行動をとる人はいないでしょうか。
「異論を唱える義務を課す」組織づくり
「集団思考型マインドセット」から抜け出す方法。そのヒントは、著者が以前在籍していたマッキンゼーにあります。
同社では、多様な意見を取り入れられるように、「異論を唱える義務」を課していたといいます。違うと思えば相手の職位や年齢にかかわらず、意見を言わなければならないのです。その意図について、次のように述べています。
社内の者同士お互いを慮って、あえて言わない、あえて聞かないといった状況は外部に対する価値の創造、提供という観点からは最悪の選択だ。何か問題が生じても責任のある人たちが「私は聞いていなかった」といって責任回避ができてしまうことにもなる。
(『なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか』 22ページ)
組織を本当に変革しようと思った時には、メンバーにこうした「義務」を課すことも必要でしょう。
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今回の日本郵便の不祥事は、『なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか』が指摘したように、巨大な組織を変革することがいかに難しいかを示しています。
それゆえに本書は、郵政民営化から20年近く経過した今なお、読む価値がある良書といえるでしょう。
(編集部・小村)
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