
11月20日、4年に1度のサッカーの祭典、FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会が開幕しました。日本が強豪ドイツとスペインを破るなど、日々熱戦が繰り広げられています。
本大会ではサッカーの試合以外に、多くの人々の注目を集めた出来事があります。それは、欧州のチームが性的少数者(LGBTQ)らに対する差別撲滅への連帯を示すため、腕章の着用を計画していたこと。イングランドやドイツなど7チームの主将らが試合で腕に巻く予定でしたが、FIFA(国際サッカー連盟)はこれを禁止しました。
開催国カタールでは、イスラム教の聖典「コーラン」が認めていないとの解釈から、同性愛が禁じられています。FIFAは理由を明らかにしていませんが、今回、腕章着用を禁止したのは、開催国のカタールに配慮したためと受け止められています(「LGBTQ連帯の「差別撲滅」腕章、FIFAが禁止…カタールに配慮か」/読売新聞オンライン2022年11月24日)。
LGBTQの権利向上を求める動きや、性差別・人種差別などに反対する動きは、スポーツに限らず様々な場面で見受けられます。そしてこうした問題は、特に“Z世代”と呼ばれる人たちの間で関心が高いようです。そこで今回は、この世代に着目したビジネス書、『Z世代マーケティング 世界を激変させるニューノーマル』(ジェイソン・ドーシー、デニス・ヴィラ/ハーパーコリンズ・ジャパン)をご紹介します。著者の2人は、世界中のZ世代の消費や嗜好について調べる、世代研究のエキスパートです。
本書では、Z世代について次のように述べています。
Z世代が生まれた年は、1996年頃から2010~2012年頃までとされる。
(『Z世代マーケティング』 61ページ)
つまり、2022年現在、10歳~26歳になる年齢の人たちがこの世代に当たります。スポーツの世界を見渡すと、サッカーの久保建英選手、テニスの大坂なおみ選手をはじめ、世界で活躍するアスリートにはZ世代が少なくありません。
本書によれば、Z世代はダイバーシティ(多様性)などへの関心が特に高いそうです。
Z世代の成長と軌を一にするように、ダイバーシティやインクルージョン、男女の賃金格差、銃規制、環境への責任といった問題について、もはや現状を容認できないと公言する団体が増えてきた。全員ではなくともZ世代の一部は、新たな規範を確立し、自分たちの成人後の世界に期待しているものを実現するため、そうした社会運動を支持している。
(『Z世代マーケティング』 73ページ)
本書は、他の世代とは異なるZ世代ならではの行動様式を数多く示しています。例えば、彼らの消費活動には、次のような特徴があるといいます。
Z世代にとっての「普通」は、車に乗って買い物に出かけることではない。アマゾンでワンクリックして(音声注文ならクリックもなく)購入し、商品をその日のうちに送料無料で受け取ることだ。
(『Z世代マーケティング』 39ページ)
Z世代にとってコンテンツ消費は息抜きや学習、調べ物などで非常に重要で、モバイル端末がその主な閲覧手段となっている。従来のテレビは見捨てられ(あるいは最初から無視され)、YouTubeやネットフリックス、TikTokに急速にシフトしている。
(『Z世代マーケティング』 78ページ)
このようなZ世代の特徴を見ると、従来のマーケティングやマネジメントの手法が彼らに通用しないのは自明のことと言えるかもしれません。
本書では、企業がZ世代を引き付けるための方法についても紹介しています。その1つが、「初回トライアル」。この手法について、著者らは次のように説明します。
Z世代はオンラインで初回購入することにも、試した経験のない商品を買うことにもあまり抵抗がない。買ったときと同じ箱に入れて送り返し、送料を含めて全額返金を受けられるなら、顧客は面倒もリスクも避けられる。それはすべてのオンライン購入者に当てはまることだが、Z世代の購買力が伸びるにしたがい、簡単・無料の返品はどこでも当たり前になり、対応していない企業は後れを取ることになる。
(『Z世代マーケティング』 199ページ)
遅かれ早かれ、Z世代が社会の中心となる時代はやってきます。マーケターに限らず、彼らの特性に応じて対策を講じることは、ビジネスの世界で必須となるはずです。Z世代の行動様式を知り、ビジネスに活かす上で、本書は多くのヒントを与えてくれるでしょう。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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