10月24日、大阪の家電メーカー「船井電機」が破産手続き開始の決定を受けました(「「世界のFUNAI」破産手続きへ 低価格テレビで一世風靡」/日本経済新聞2024年10月25日)。
一時は北米市場でトップシェアを獲得し、「世界のFUNAI」と呼ばれた企業の破産(倒産)とあり、驚かれた方も少なくないかと思います。また、今回の報道を機に、自社の破産を回避するために今すべきことは何か、改めて確認しようと思われた組織のトップの方もいるかもしれません。
そこで今週は、『倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ』(近藤宣之 著/ダイヤモンド社 刊)をPick Upします。タイトルが示す通り、倒産寸前だった株式会社日本レーザーを甦らせた近藤宣之・代表取締役会長が、自らの経営手法を全面公開した本です。
会社経営の原理原則
日本レーザーは最先端の研究・産業用レーザーや光学機器などを輸入・販売する、1968年創業の専門商社です。
近藤氏が1994年に代表取締役社長に就任した当時、同社は長期にわたる業績不振が響き、1億8000万円もの累積赤字を抱えていたといいます。当時の日本レーザーは不良在庫や不良設備といった「不良」以外は何もない修羅場だった、と氏は語ります。
そんな中、近藤氏は社長就任1年目から同社を黒字に転換。以後、25年連続黒字(当時)を達成しました。また、2011年には「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の中小企業庁長官賞を受賞するなど、「人を大切にしながら利益を上げる企業」として高く評価されています。
近藤氏は、これまでに数々の修羅場を体験したからこそわかった、「会社経営の原理原則」があるといいます。それは、次の2つです。
- ・「人を大切にする経営」の実践こそ、会社を成長させるたったひとつの方法である
- ・「人を大切にする経営」を実践するには、会社を絶対に『赤字』にしてはいけない
(『倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ』 30ページ)
つまり、会社を成長させるには、社員の雇用を守り、彼らのモチベーションを上げなければならないということです。そして、そのためには、利益が絶対に必要であり、だからこそ、経営者は「会社を赤字にしてはいけない」といいます。
会社を変えるのは、社長の「心」
では、25年連続黒字を達成するにあたり、近藤氏は具体的に、どのようなことに取り組んだのでしょうか?
1つは、日本レーザーが「どうやるか」の経営ではなく、「どうあるべきか」の経営を心がけたといいます。
「どうやるか」の経営とは、例えば、「どうやってコストダウンするか」「どうやって売上を伸ばすか」といったことにフォーカスすることです。しかし近藤氏はそうではなく、次のような経営者の「あり方」を明確にし、その実現に向けた取り組みを行ったといいます。
会社を黒字にするには、
- ・「何のために、会社を経営するのか」
- ・「なぜ、会社を存続させたいのか」
- ・「自分はどのような経営者になるのか」
といった、経営者としての「あり方」「理想」「理念」を明確に持つことのほうが、何倍も大切です。
(『倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ』 33~34ページ)
これらが重要なのは、社長の「あり方が変われば、その後の行動がおのずと変わる」からだそうです。そして社長の行動が変われば、社員の行動が変わり、会社も変わっていくといいます。
現在、業績の伸び悩みを感じている方であれば、この近藤氏のアドバイスに倣い、経営者としてのあり方や理想、理念について今一度確認してみるのもいいかもしれません。
強い財務体質をつくる
小さなグローバル企業である日本レーザーにとっては、「為替相場の影響に動じない強い財務体質をつくる」ことも重要だったといいます。
例えば、アジア通貨危機により、1998年8月に1ドル=147円台まで円安になった時、同社は危機に立たされます。しかし、そんな状況でも赤字にならなかったのは、次のような自主努力を怠らなかったからだと述べています。
- ・不良債権と不良在庫を除却し、B/Sを改善していた(財務体質を強くした)
- ・常に新規商権を探し、市場に新商品を導入する努力を継続し、取引先1社に依存するリスクを避けようとしていた
- ・賃金制度が弾力的で、不況で業績が落ちれば、人件費もある程度スライドして減少する。すなわち人件費が完全には固定費ではない(他社にない仕組み)
- ・絶えず社員のモチベーションを高く維持することで、困難な場面で火事場の馬鹿力が発揮された
(『倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ』 112ページ)
また、急激な為替変動や世界同時不況などの危機を乗り越えるためには、人のせいにせず、「身のまわりに起きることは、すべて必然である」と考えることも重要だといいます。
「デフレだから、しかたがない。円安だから、しかたがない」(中略)と消極的に考えていたら、時代の変化に対応することはできません。
厳しい外部環境の中でも利益を安定的に出していくには、「すべての問題は内部にある」と自責の思考(自分に責任があるという考え)を持つことです。(『倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ』 121~122ページ)
失敗した時や予想外の出来事が起きた時、その原因を自分ではなく外部環境に求めてしまいがちです。ただ、黒字化を達成し続けるには、そうした弱さを改め、自責の思考を持つことが重要であることを、上記の言葉から感じ取ることができます。
今年7月上旬に1ドル160円台を突破し、34年ぶりの円安水準を記録しました。もしかすると、近い将来、再び急激な円安に向かうこともあるかもしれません。その備えとして、経営者の方は今のうちから自責の思考を身につけ、危機を乗り切る覚悟をしておくことが重要でしょう。
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『倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ』にはこの他にも、「人を大切にする経営」という原則の下、修羅場で用いたノウハウの数々が披露されています。
絶体絶命の窮地を脱した近藤氏のアドバイスは、「業績不振から脱却したい」「会社を今より大きく成長させたい」「共に働く社員を大切にしたい」と願う経営者はもちろん、組織のリーダー、マネジャーにもきっと参考になるはずです。まだお読みでない方には、ぜひ一読をおすすめします。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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