2022年1月号掲載
推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来
著者紹介
概要
一昔前、オタクは「萌え」という言葉で、キャラクターやタレントへの愛を表した。しかし、今は「推し」。萌えのように、内的な感情で対するより、一緒に何かすることに重きを置く。なぜ、ファン心理は変化したのか? この変化が経済に及ぼす影響とは? エンタメ業界に地殻変動を起こす「推し」について、社会学者が解説する。
要約
「萌え」から「推し」へ
2020~21年、エンタメ業界のユーザーを取り巻く世界がドラスティックに変わった。
ゲーム市場はコロナを追い風として2~3割増加し、2~3割減のアニメやテレビ番組は多チャンネル構想を推進し、4割減の映画が配信へのシフトに挑戦している。これほどの変化は、過去100年でも起こったことのないものだ。
夢中になれる共体験がエンタメになる
この変化の背景には、メディアに先んじて、ユーザーが変化したことがある。ユーザーが選択したからメディアが変わり、メディアを通してコンテンツが変わってきている。
ユーザーは、もはや「消費者」と呼んでいた頃の行動特性をもっていない。彼らはむしろ、「表現者」のようにコンテンツとの付き合い方を変えるようになってきた。
その行動変容の基軸にあるのが、キャラクターやタレントを「推す」という行為である。
「推し」は、以前は女性の世界だけに閉じていて、例えば宝塚やジャニーズのファンに昔からみられた現象である。若手の俳優・タレントを「推し」として入れ込み、その「推しタレント」が成長・出世していく様を共に喜び、感動する。
恋愛とも友情とも親子愛とも異なる、不思議な感情。ただ、間違いなくこの「推し」による活動は自分に活力をもたらす。毎週末が鮮やかに彩られ、平日も前向きに仕事に打ち込むことができる。
かつて男性オタクは「萌え」を使い、かわいいキャラクター・タレントヘの恋愛とも性愛ともいえない愛着を表現した。『電車男』がヒットした2005年が「萌え」のピークで、その後は廃れていく。それと交代するように、「推し」が女性のみならず男性にも広がるようになってきた。
「萌え」から「推し」という変化は、対象(キャラやその作品の世界観)に対する人々の態度や価値観が変化したから生じた。「萌え」のように対象への内的な感情で対する姿勢ではなくなり、「推し」としてキャラ・タレントに活動として何かを与える、一緒に何かをしていくことを重視するようになっている。
「幸せへの道」の変化
なぜ、内的な「萌え」から、外的な「推し」へとファンの心理が変化したのか?
これは「家族」との関係が大いに関係している。家族形成が幸せへの道でなくなったことが知れ渡ってしまった現代にあって、その役割からの自由・解放を求める行動だと考えられる。