2006年9月号掲載
上に立つ者の人間学
著者紹介
概要
政治家秘書としての37年の経験や、安岡正篤氏に師事した経験をもとに、「部下を持つ立場」にある人の生き方、考え方の指針を示す。古今東西の古典の教えや、歴史上の人物の言葉などを引きながら、やさしい言葉で説いた、“リーダーのための人間学”である。なお、上に立つ者以外に、秘書、政治家、医師に求められる人間学も併録。
要約
上に立つ者の心構え
制度・機構・組織は、人間によって成り立っている。そうである以上、その人間の感情、生き方や考え方を抜きにしては、うまく運用できない。
そこで、経営者であれ、中間管理職であれ、部下を持つ立場にある者には、次のような心構えが必要となってくる。
①人間の尊厳について弁えていること
組織の中で、上に立つ者は経験や能力などからその地位を与えられているが、それは人間としての価値・生命の尊さについて変わりがあることではない。
それを自分が偉くなったように思って威張ったり、部下の人間性を傷つけるような言動を平気でするのは、人間的に人の上に立つ資格がないことを証明するものである。
どんな社会の中にあっても、威張るような人間は底が知れているもので、孔子は2500年以上も前に「如し周公(孔子が最も尊敬していた周公旦)の才の美あるも、驕(おごり・いばり)且つ吝(けち・ねたみ)ならしむれば、其の余は観るに足らざるのみ」(『論語』)と言っている。
②指揮監督者であると同時に教育者であること
部下を持って仕事をするということは、部下の能力を最大限に発揮させ、自分1人ではできない成果を上げることである。経験も浅く、能力も未開発な部下を教え育てていくことは、上に立つ者の重要な責務である。
「大人の学」(指導者のための学)といわれる『大学』にある「民に親しむ(民を新たにす)」とは、下の者に同じ価値観を持たせるように教育し、自ら向上心を持ち努力をさせて、常に前進させることと理解できる。
部下に仕事に対する意欲を持たせ、喜んで勉強や仕事をさせて、充実感・幸福感を味わわせることは、一に上役の教育にかかっている。
③率先垂範すること
山本五十六元帥は教育に携わっていた頃、次の歌をよく示したという。
「やって見せ 言ってきかせて させてみて 褒めてやらねば 人は動かず」
人を使う立場の人のあり方を、実によく表している。口先だけでは人は動かない。本当に人を動かすのは、上に立つ人の人格・実践なのである。