
「全然、話聞いてないやん!」
私はこのように、妻からとがめられることがしばしばあります。原因ははっきりとわかっています。本を読んでいたり、スマートフォンを触っていたりしていて、彼女の話にしっかりと耳を傾けていなかったからです。
もしかすると、読者の中にも似たような経験をお持ちの方がいるのではないでしょうか。現代の忙しい生活において、私たちは集中力を失いがちです。スマホの通知、ソーシャルメディアの誘惑、さらには多忙な仕事によって、私たちの注意力は散漫になることが少なくありません。
しかし、集中力は私たちが成功する上で不可欠な要素です。なぜなら、集中力があることで創造的な解決策を見つけ、仕事の質を向上させることができるからです。そこで今回は、本当にやりたいこと・必要なことに集中できる環境を作り、それに没頭するための方策を説いた『大事なことに集中する 気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』(カル・ニューポート/ダイヤモンド社)をPick Upします。
著者は、ジョージタウン大学准教授のカル・ニューポート氏。コンピュータ科学者として教鞭をとる傍ら、自身のブログ「Study Hacks」で学業や仕事をうまくこなして生産性を上げ、充実した人生を送るためのアドバイスも行っています。
ニューポート氏は『大事なことに集中する』の中で、必要なことに集中して物事を極める人とそうでない人の働き方の違いを、「ディープ・ワーク」と「シャロー・ワーク」という言葉を用いて説明しています。それぞれの定義は次の通りです。
ディープ・ワーク:あなたの認識能力を限界まで高める、注意散漫のない集中した状態でなされる職業上の活動。こうした努力は、新たな価値を生み、スキルを向上させ、容易に真似ることができない。
『大事なことに集中する』3ページ
シャロー・ワーク:あまり知的思考を必要としない、補助的な仕事で、注意散漫な状態でなされることが多い。こうした作業はあまり新しい価値を生み出さず、誰にでも容易に再現することができる。
『大事なことに集中する』8ページ
ネットワーク・ツールの台頭により、多くの知的労働者はディープ・ワークをどんどんシャロー・ワークに変えてしまっている、とニューポート氏は指摘します。多くの価値ある成果を生み出すには、これを逆転させ、ディープ・ワーク中心に変えていく必要があります。
また、最近ChatGPTが注目を集めていますが、今後「機械との競争」に人間が勝ち残り、成功するためには「難しいことを素速く習得する能力」と「品質も速度も一流レベルの生産能力」が不可欠だといいます。そしてこの能力を身につけられるか否かは、ディープ・ワークを実践できるかどうかにかかっていると本書で述べています。
では、ディープ・ワークを実践するにはどうすればよいのでしょうか?
『大事なことに集中する』では18の戦略を紹介しているのですが、興味深いのは、この中で「インターネットをやめることは大半の人にとって実行不可能」だと述べている点です。
集中力を取り戻すには、“ネット絶ち”―― 一定の時間(例えば週に1日)インターネットを使うのをやめることが必要だと考える人がいるかもしれません。ですがニューポート氏は、「1週間に1日だけ気を散らすことをやめても、それへの切望はなくならない」と言います。そしてネットを断つ代わりに、次の戦略を提案します。
ネットを使うときを前もって予定に入れ、それ以外では使わない。コンピュータのそばにメモ用紙を置いておくといい。それに“次に”ネットを使う時間を書いておき、それまでは絶対に使わない。
『大事なことに集中する』142ページ
このように、気を散らすものに費やす時間を計画的にコントロールすることで、集中力を強化することができるといいます。iPhoneをお使いの方であれば、「スクリーンタイム」という機能を使って、アプリを使わない時間を設定してもいいかもしれません。
娯楽や情報があふれる今の世の中で、集中し続けることは簡単ではありません。ですが、訓練と意識的な努力次第で、誰でも集中力を向上させることができます。いろんな情報に目移りして1つのことに集中できない、深く考える時間を持ちたい、とお悩みの方は、ニューポート氏の説く戦略を取り入れてみてはいかがでしょうか。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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