2026.10.12

編集部:油屋

お客様は本当に「神様」なのか? カスハラ時代に考える顧客との向き合い方

お客様は本当に「神様」なのか? カスハラ時代に考える顧客との向き合い方

 「お客様は神様です」
 この言葉を広めたのは、歌手の三波春夫(1923~2001)だといわれています。もっとも公式サイトによれば、三波がこの言葉に込めたのは、舞台に立つ際、神前で祈るような気持ちで最高の歌を届けたいという演者としての心構えだったそうです。

 ところが、いつしか「お客様は神様なのだから、何を言っても許される」という意味で使われることも増えていきました。顧客からの過剰な要求や威圧的な言動、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題となっているのは、その一例といえるでしょう。店員への暴行や土下座の要求、大声での暴言など、深刻なケースも見られます。
 こうした状況を受けて法改正が行われ、2026年10月1日から、企業等にはカスハラ防止のため、雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられました。

 顧客の声に耳を傾け、よりよいサービスを提供することは重要です。しかし、カスハラの問題を見ても、「できる限り顧客の期待に応えるべきだ」という考え方が常に正しいとはいえません。では、企業は顧客の声にどこまで対応すればよいのでしょうか?
 その問いを考える上で参考になるのが、『おもてなし幻想 デジタル時代の顧客満足と収益の関係』(マシュー・ディクソン 他著/実業之日本社 刊)です。顧客満足やロイヤルティ(顧客が特定の企業やブランドに対して抱く忠誠心や信頼)を高めるためのヒントが詰まったこの本を、今週はPick Upします。

顧客を喜ばせても、効果は薄い!?

 『おもてなし幻想』の著者らが所属する企業CEBは、世界各国で400以上の企業が参加するカスタマーサービス組織のネットワークを運営しています。著者らが約10万人の顧客を対象に調査したところ、従来のビジネスの常識を覆す事実がいくつも明らかになったといいます。
 その1つが、「喜びの戦略は割に合わない」というものです。

 

期待以上のサービスを受けた顧客と期待が満たされただけの顧客のロイヤルティには事実上差がまったくないということだ。

(『おもてなし幻想』 44ページ)

 
 ビジネスの世界では、顧客に「期待以上」のサービスを提供し、顧客を囲い込むことが競合との差別化につながると考えられてきました。しかし、調査の結果、顧客を感動させることはロイヤルティの向上にほとんどつながらないことがわかったと、著者らは述べています。
 では、顧客ロイヤルティを高めるには、何が必要なのでしょうか。

カギは「顧客に努力させない」こと

 本書によれば、重要なのは「顧客の手間を省く」ことだそうです。

 

ロイヤルティを生み出し、会社を成功させたいと真剣に思うのならば、顧客努力の軽減を新たにサービス戦略の中核にすえなければならない。

(『おもてなし幻想』 75ページ)


 ここでいう「顧客努力」とは、サービス担当者とのやり取りに顧客が注がなければならない労力や、商品やサービスを利用する際に必要となる手順の数などを指します。
 企業は、「感動的なサービスを提供しよう」「期待を超える対応をしよう」と考えがちです。しかし、顧客のロイヤルティを高めているのは「面倒なことをしなくて済む」「簡単に問題を解決できる」といった、負担の少ない体験の方だというのです。

 日本では、「おもてなし」が高く評価されてきました。顧客の要望を先回りして考える。細かなところまで気を配る。期待以上のサービスを提供する ―― 。こうした姿勢は、2013年の東京オリンピック招致の際に注目され、日本企業の強みの1つとして改めて認識されるようになりました。
 しかし、本書の指摘に従えば、企業が「顧客のために」と考えて付け加えたサービスが、必ずしも顧客に喜ばれるとは限りません。手続きが複雑になったり、何度も問い合わせが必要になったりすれば、顧客の負担になってしまうからです。つまり、顧客の要望にできる限り応えることよりも、顧客の手間を減らすことが、本当の意味で顧客のためになるのかもしれません。

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 「おもてなしこそ、日本企業の強み」という常識を疑い、本当に顧客が求めているものは何かを考える。『おもてなし幻想』は、そんな視点を与えてくれる1冊です。
 本書ではこの他、「顧客満足度と将来の顧客ロイヤルティとの間に関係はない」「よい体験よりも、悪い体験の方が口コミは広がる可能性が高い」といった、従来の常識を覆す事実を明らかにしています。カスハラへの対応に悩む企業をはじめ、顧客とより良い関係を築く方法を考えたいビジネスパーソンに、ぜひおすすめしたいビジネス書です。

(編集部・油屋)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2018年9月号掲載

おもてなし幻想 デジタル時代の顧客満足と収益の関係

感動的なサービスを提供して、顧客ロイヤルティを高める ―― 。多くの企業が取り組む「おもてなし」は、割に合わない! 本書はその根拠を、約10万人を対象に行った調査結果を基に示し、行き過ぎたサービスはロイヤルティを損なうと説く。では、企業はどうすればいいのか? カギは、「顧客に手間をかけさせないこと」だ。

著 者:マシュー・ディクソン、ニック・トーマン、リック・デリシ、神田昌典(監修)、リブ・コンサルティング(監修) 出版社:実業之日本社 発行日:2018年7月
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