2026.8.24

編集部:福尾

日本はいつの間にテーマパークになったのか? 「日常」が変わる日本の「ニセコ化」

日本はいつの間にテーマパークになったのか? 「日常」が変わる日本の「ニセコ化」

 先日、フランス人のママ友と京都駅近くにあるイオンモールに行きました。彼女は初めて日本の大型ショッピングモールを訪れたようで、「なんだかディズニーランドに来たみたい!」と驚いている姿が新鮮でした。

 

 イオンモールは、私にとって子どもと買い物をしたり、食事をしたりする、ごく日常的な場所です。ところが改めて観察してみると、衣料品や雑貨、飲食のお店だけでなく、昭和レトロな駄菓子屋、アミューズメント施設、カプセルトイの専門店、映画館まで揃っています。買い物をするだけでなく、遊び、食べ、映画を観て、1日を過ごせるようにつくられているのです。

 

 「ディズニーランドみたい」という彼女の言葉を聞いて、私はふと考えました。もしかすると今、日本人が「日常」と思っている空間そのものが、外国人にとっては「日本を楽しむためのテーマパーク」になりつつあるのではないか――。

 今週は、こうした印象を『ニセコ化するニッポン』(谷頭和希 著/KADOKAWA 刊)で読み解いていこうと思います。

「選択と集中」で、街はテーマパークになる

 都市ジャーナリストの著者は、日本が今、あらゆる局面で「ニセコ化」していると指摘します。ニセコ化とはなんでしょうか? 本書によると――  

 

「『選択と集中』によってその場所が「テーマパーク」のようになっていく」現象である。

(『ニセコ化するニッポン』 18ページ)

 

 その象徴が、北海道のニセコです。

 近年のニセコは、外国人富裕層をターゲットとして「選択」し、彼らが求める高級ホテルや高価格の商品、サービスなどに「集中」しています。その結果、一般的な日本の観光地とは異なる、「別世界」のような空間が生まれたといいます。

 

 牛丼が2000円、ホテル1泊が15万円――。そう聞けば、「日本の一般人が楽しむ場所ではないのでは」と感じるかもしれません。

 

 しかし、ニセコ化はニセコだけの特殊な現象ではありません。

 例えば本書では、2024年に東京の豊洲市場横に誕生した「豊洲 千客万来」が、インバウンド客を意識した高価格帯の商品やサービスを展開し、彼らが楽しめる空間づくりに力を入れていることを紹介しています。また、渋谷の再開発やスターバックスの「フラペチーノ」など、身近な事例についても取り上げています。詳しくは、ぜひTOPPOINTライブラリーの要約をご覧ください。

「選ばれなかった人」は、どこへ行くのか

 印象的なのは、著者がニセコ化の問題を「静かな排除」という言葉で捉えていることです。

 「選択と集中」によって、ある場所が特定の人にとって魅力的になればなるほど、その対象から外れた人は、そこに居場所を感じにくくなることがあります。

 スターバックスもその一例です。同店は先述のフラペチーノでコーヒーを飲まない若い女性などを新たな顧客として「選択」したり、ちょっと背伸びしたコーヒーの価格設定をしたりするなど、独自の世界観をつくり上げてきました。

 

スタバの店内に行くと、どれだけ「豆」にこだわっているのか、どれだけ環境に配慮しているのかが力説される。あるいはその注文の仕方は独特で、慣れていない人だと怖気付いてしまう。ある種の「選民意識」を喚起するのだ(中略)もちろん、スタバは表立って「~~なタイプの人は排除していますよ」なんて言わない。まさに「静かな排除」だ。

(『ニセコ化するニッポン』 183ページ)

 

 誰かを明確に追い出すわけではありません。それでも、価格帯やサービス、街の雰囲気が変わることで、「自分はここに歓迎されていない」と感じる人が生まれてしまうのです。この問題が特に深刻なのが、国や自治体がつくる公共空間だといいます。

 例えば、ニセコに住んでいた人が、外国人観光客の増加や2000円の牛丼に嫌気がさしたからといって、すぐに転居するということは難しいでしょう。

京都で起きている変化

 このことは、京都に暮らす私にとっても、決して遠い話ではありません。

 2025年、京都市を訪れた観光客は6279万人と過去最多を更新。そのうち外国人は1268万人で、2019年から43.1%増えました(「京都観光総合調査結果」/京都市)。

 さらに、2025年から2026年にかけて、京都市では外国人住民が6483人増えた一方、日本人住民は1万620人減少しています(「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」/総務省)。

 

 観光客として訪れる人だけでなく、実際に街で暮らす人の構成も変わっているのです。

 新しいホテルが建つ。高級な店が増える。外国人観光客が増える。街がきれいになり、便利になる。一見すると、どれも歓迎すべき変化です。

 しかし、その変化によって、誰がより快適になり、誰が居場所を失うのか。そこまで考えなければ、「魅力的な街づくり」が、知らないうちに「静かな排除」につながる可能性があります。

「誰にとっての快適さなのか」を考える

 冒頭のイオンモールでの出来事も、そんなことを考えるきっかけになりました。

 日本人にとっての「日常」が、いつの間にか、誰かにとっての「日本を楽しむための非日常」になっていく。

 

 『ニセコ化するニッポン』が問いかけているのは、単に「日本がテーマパークになるのは良いことか、悪いことか」という問題ではありません。より効率的に、より魅力的に、より多くの人を惹きつける場所をつくろうとするとき、「誰のための場所なのか」「そこからこぼれ落ちるのは誰なのか」まで考えられているか。

 それは、街づくりだけでなく、企業が顧客を選び、商品やサービスを設計するときにも突きつけられる問いではないでしょうか。

 

 この夏、旅行や街歩きで「ここ、テーマパークみたいだな」と感じた場所があったなら、その風景をもう一度見直してみてください。私たちが「日常」と呼んでいるものの中にも、日本社会の「ニセコ化」は静かに進んでいるのかもしれません。この本は、そんな気づきを与えてくれる1冊です。

(編集部・福尾)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2025年4月号掲載

ニセコ化するニッポン

近年、北海道のスキーリゾート・ニセコに、外国人富裕層が押し寄せている。1泊170万円のホテル、看板の多くが英語など、街の姿は日本とは思えない。その名を冠した「ニセコ化」とは、「選択と集中」によって、その場所が「テーマパーク」のような別世界になること。今、日本全体で起きているこの現象を、具体例とともに紹介する。

著 者:谷頭和希 出版社:KADOKAWA 発行日:2025年1月
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