6月11日(木)、FIFAワールドカップ(W杯)北中米大会がいよいよ開幕します。
先月、サッカー日本代表の森保一監督はメンバー発表会見でW杯への心境を問われ、こう答えました。
「凡事徹底(ぼんじてってい)」
派手さよりも地道な積み重ねを。今できることをしっかりとやって、最善の準備をして全力を出し切る ―― 。それが、世界の頂点を見据えた森保監督の言葉でした。
この「凡事徹底」という言葉を広めたのは、「イエローハット」の創業者・鍵山秀三郎氏だといわれています。今回Pick Upする『凡事徹底 平凡を非凡に努める』(致知出版社 刊)は、その鍵山氏の人生哲学が詰まった1冊。1994年の刊行以来、10万部・30刷を数えるロングセラーとして、日本を代表するリーダーたちが繰り返し手に取ってきた名著です。
「凡事徹底」は人の心と組織を変える
鍵山氏は1961年、28歳で自動車用品販売の会社を創業し、後に東証プライム市場の上場企業となるイエローハットへと育て上げた人物です。そんな鍵山氏が創業時から続けていたのが、会社のトイレや周辺の「掃除」でした。
なぜ、掃除だったのか。その理由を鍵山氏は、次のように語っています。
私は汚いものを汚いままにしておいたら、もっと心がすさむと考えたんです。(中略)トイレをきれいにしておけば、少なくともその怒りが増幅されることはない。そういうふうにしたというのが私の願いでした。
(『凡事徹底』 121~122ページ)
零細企業だった当時、社員は取引先で屈辱的な扱いを受けて帰ってくることも多かったそうです。そこで、せめて自社のトイレだけは清潔に保つことで、心の安らぎを守ろうとしたのです。
しかし、最初から周囲の理解があったわけではなかったといいます。鍵山氏が1人で掃除をしていても、協力する社員は現れなかったそうです。それでも鍵山氏は掃除を続けました。そして1年、2年、10年と積み重ねるうちに少しずつ賛同者が現れ、やがて社員全員が掃除に参加するようになったそうです。すると、職場の空気や社員の表情にも変化が生まれていったといいます。こうした変化について鍵山氏は、次のように述べています。
私一人、まずコツコツとやる。そのひたむきな姿に共鳴者が現れてきて、いつの間にかみなが光る。そして、さらにそれを徹底して継続をしていると、何もかも光るようになる。
(『凡事徹底』 88ページ)
凡事を徹底することは、単に環境を整えるだけでなく、人の心と組織の文化を変える力があることを、本書は教えてくれます。
「微差・僅差の積み重ね」
本書で鍵山氏は、仕事で成果を出す人と、そうでない人の違いについても言及しています。
それは「微差・僅差を追求し続けること」です。今よりもほんの少しでも良い方法があれば、それに取り組む。その小さな改善を積み重ねた先に、大きな差が生まれるというのです。
鍵山氏は、こうした積み重ねを実践し続けた結果として、約600億円規模の事業を育て上げることができたと言います。特別な商品があったわけでも、特別に安かったわけでもない。ただ、微差の積み重ねを続けたことが「大差」となって現れたのだと、鍵山氏は述べています。
一方で、本書は「凡事」を続けられない人の特徴についても鋭く指摘します。
もともと仕事というのは、単純で単調です。退屈で、見ばえのしない、やりがいのないものだと思います。ところが、それに耐えられなくて、単純、単調ではない、もっと派手な、やればすぐに成果につながる、すぐに儲かる、あるいは、人にすぐ認められ、すぐに評価されることをやりたくてしようがなくて、結果的には、1つもいい評価につながらないという人が多いのです。
(『凡事徹底』 26~27ページ)
「短期間で成果が出る」「すぐに評価される」 ―― 。そうした“即効性”を求める風潮は、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場によって、さらに強まっているようにも見えます。しかし本書は、成果を出すために本当に大切なのは、まず目の前の仕事と向き合い、小さな改善をコツコツと積み重ねていくことだと教えてくれます。
*
非凡な力を生み出すには、平凡なことを疎かにせず、徹底して行うこと。そして、それを明日も、来月も、来年も続けること。『凡事徹底 平凡を非凡に努める』が説くのは、そんなシンプルで揺るぎない真理です。
約160ページというコンパクトな本ですが、その中には長く読み継がれてきた理由が詰まっています。まだお読みでない方には、ぜひ手に取っていただきたい1冊です。
(編集部・油屋)
* * *
「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
このPick Up本を読んだ方は、
他にこんな記事にも興味を持たれています。
-
東日本大震災の際、最大級の支援プロジェクトを立ち上げた著者が語る チームづくりの哲学
-
ロボットは私たちの未来社会に何をもたらすのか?
-
値上げラッシュに振り回されないために いま身に付けるべき“インフレの教養”