日常生活の中で“気づく”力
「子どもの頃は、雨粒を見て、どうして落ちるのだろうと考えていられた。でも今は、目の前の考えないといけないことが多すぎる」
ママ友の一言に、深くうなずきました。
私たちは、いつから自然を見つめる余裕をなくしてしまったのでしょうか。
一方、3歳の息子は違います。
「おいしそうな雲だね」
「どうして窓に水がつくの?」
「ティラノサウルスみたいなおうち!」
初めて見るものや触れるものに対する彼の反応で、当たり前と思っていた景色が、新鮮に見えてくることがあります。子どもの目線を借りることで、私は何度も世界と出会い直しているような気持ちになります。
こうした「気づき」の感覚は、「マインドフルネス」として知られるものかもしれません。この心の状態は集中力や生産性を向上させる、という点でビジネスパーソンの皆さまも注目されているのではないでしょうか。
最古の瞑想「ヴィパッサナー」
そこで、今週Pick Upするのは、その「気づき」を得るための方法を記した名著『ヴィパッサナー瞑想の教科書 マインドフルネス 気づきの瞑想』(バンテ・ヘーネポラ・グナラタナ 著/徳間書店 刊)です。仏教の最も古い瞑想法の1つ「ヴィパッサナー瞑想」について、わかりやすく解説しています。
瞑想については、よくご存じの方も多いかもしれませんが、「ヴィパッサナー」とは何でしょう? 本書は、次のように説明します。
「ヴィパッサナー」という語はパーリ語で、よく「智慧の瞑想」と訳されています。ヴィパッサナーを実践することによって、ものごとの本質を見抜く智慧と、ものごとがどのように働いているかに関する明確な理解が得られるのです。
(『ヴィパッサナー瞑想の教科書』 339ページ)
この瞑想の目的の1つは、「心を清らかにすること」です。心を苦しめている欲や怒り、嫉妬、いらだちなどの感情を、清らかにする。そうすれば心を静寂と気づきの状態、つまり集中力と洞察力のある状態にすることができるといいます。
呼吸の“間”に気づく
瞑想の方法は、とてもシンプル。
静かに座り、目を閉じ、呼吸に意識を向ける。ただそれだけです。
『ヴィパッサナー瞑想の教科書』によると、この時のポイントは次の通り。
鼻の穴に集中します。息が出たり入ったりする感覚をただ感じるのです。
息を吸いきって吐き始める前に、一瞬、間があります。この間と、息を吐き始めようとする瞬間に気づいてください。息を完全に吐き終わったら、今度は吸い始める前に一瞬、間があります。この間にも気づいてください。(中略)2つの間はほんの瞬間ですから、普段はそれに気づくことがないでしょう。マインドフルに観察するとき、気づくことができるのです。(『ヴィパッサナー瞑想の教科書』 98ページ)
瞑想中は、呼吸の“間”に気づくことが大切だそうです。
では、どのくらいの時間、瞑想すればよいのでしょうか?
本書には、初心者は20分以内でよいとありましたので、私も試してみました。
実際に瞑想を始めてみて驚いたのは、呼吸に意識を向けることの難しさです。頭の中には、「明日はこの仕事を片付けないと」「あの人にこんなことを言われた」「お腹空いたな…」といった脈絡もない思考が次々と割り込んできます。
しかし、ポイントは「雑念を消すこと」ではありません。雑念に気づいた時には、ありのままを認識して、静かに呼吸へ戻ること。それこそが、心のトレーニングになると、この本は伝えています。
10分ほど経つと、呼吸の“間”の感覚が長くなっていることに気が付きました。つまり、浅い呼吸だったのが、次第に深い呼吸に変わっていったのです。息を吸い込むと肋骨が広がり、背骨が整っていく感覚もあります。呼吸が深くなるにつれて、心のノイズは少しずつ静かになっていきます。
20分後、目を開けた時の感覚は鮮やかでした。頭は霧が晴れたようにすっきりとし、目の前の景色がくっきりと見えるように感じました。世界の解像度が一段上がったような感覚です。
心を静め、集中力を高める
『ヴィパッサナー瞑想の教科書』は、瞑想中の心の状態を次のようにたとえています。
心はコップに入った泥水のようなものです。コップを動かさずに静かに置いておくと、やがて泥は沈み、水が透きとおって見えるようになります。同様に、身体を動かさずに静止させ、心を瞑想対象に完全に集中させるなら、心は静まり、幸福を感じ始めるでしょう。
(『ヴィパッサナー瞑想の教科書』 96ページ)
現代の私たちの心は、仕事や家庭の役割、スマホから流れ込む無数の情報といったものに常に揺さぶられ、濁った泥水のようになっているのではないでしょうか。ヴィパッサナー瞑想はその泥を沈めて、透き通った水の状態に回復する行為といえるかもしれません。
この本は、他にも、歩きながら瞑想する方法など、忙しいビジネスパーソンでも、手軽に「気づき」を得られるヒントをご紹介しています。ヴィパッサナー瞑想について詳しく知りたい方はもちろん、最近、考え事ばかりして心が休まらないな、という方はぜひ、TOPPOINTライブラリーに収録されている要約をご覧ください。
私自身、できるだけ毎日20分の瞑想を続けるようにしています。子どもが入浴している間や早朝のまだ暗い時間、1日のうちで1人になれる時間を見つけては、静かに呼吸に意識を向けています。瞑想できた日は、集中力が増し、充実した1日になるように思います。
呼吸の“間”に気づくこと。
そこから、世界はもう一度、鮮やかに立ち上がります。
(編集部・福尾)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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