2025.12.8

編集部:福尾

映画『国宝』が示した一流の仕事術。成果は“才能”ではなく“究極の鍛錬”で生まれる

映画『国宝』が示した一流の仕事術。成果は“才能”ではなく“究極の鍛錬”で生まれる

今年、社会現象となった映画『国宝』

 12月、『TOPPOINT』編集部のある京都では、冬の風物詩「吉例顔見世興行」が南座で開催されています。東西の人気歌舞伎役者が集うこの舞台では、映画『国宝』にも登場した女形舞踊の代表演目「鷺娘」を八代目尾上菊五郎氏が披露します。

 今年大ヒットした映画『国宝』は、歌舞伎役者の半生を描いた作品です。6月の公開以降、172日間で観客動員数は1231万人、興行収入は173.7億円を突破し、邦画の興行収入記録を22年ぶりに更新しました(「映画「国宝」、実写邦画で興収歴代首位に 22年ぶり「踊る2」超え」/日本経済新聞電子版2025年11月25日)。
 さらに「2025 T&D保険グループ新語・流行語大賞」では、“国宝(観た)”がトップテン入り。第98回米アカデミー賞国際長編映画賞部門では日本代表に選出され、原作小説も2025年文庫部門の年間ベストセラーランキング1位を記録しました(トーハン・日販調べ)。

 私も公開直後に映画館で鑑賞しました。歌舞伎という謎めいた世界を、圧倒的な映像美で描いたこの作品が説得力を持つのは、制作陣の並外れた準備と鍛錬あってこそだと感じました。主演俳優は1年半の稽古を積み、役作りに挑んだといいます。
 作品の奥に流れるのは「努力の軌跡」であり、華やかな舞台に立てない時期でも芸に身を投じ続ける主人公の姿には、自分もそうありたい、と背筋が伸びるものがありました。

天才は存在しない ―― あるのは鍛錬

 私たちは、国宝級の芸術家やメジャーリーグの大谷翔平選手のような偉業を成し遂げる人々に対して、つい「天才だから」と片づけてしまいがちです。ですがその背後には、極限まで自らを鍛え上げる“究極の鍛錬”が存在します。
 今週Pick UPする本『究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる』(ジョフ・コルヴァン 著/サンマーク出版 刊、現在は新版)は、ハイパフォーマンスを上げる人々に共通する要素を、心理学の成果を基に解明したビジネス書です。
 
 著者は、同じ取り組みをしていても、一流と二流を分けるのは、才能ではなく、専門分野にかけた時間と「究極の鍛錬」にある、と断言します。
 では、その鍛錬とは何か。本書は具体的な5つの条件を提示します。

 

  • ①実績向上のため特別に考案されている
  • ②何度も繰り返すことができる
  • ③結果へのフィードバックが継続的にある
  • ④精神的にはとてもつらい
  • ⑤あまりおもしろくない

(『究極の鍛錬』 99~106ページより一部抜粋)


 この①が示す「特別に考案された訓練」とは、すでにできることではなく、“もう少しで届く課題”に挑み続けることを意味します。手の届きそうな壁を設定し、反復し、結果を受け取り、修正する。このサイクルは、凡人が到達できない領域に踏み出す唯一の方法なのかもしれません。
 この方法は、ビジネスにも応用できるのではないでしょうか。例えば、プレゼン上達のためには、話す内容を分析し、重要なメッセージは何かを決めます。その際、論理性や情熱が伝わるかなどを点検しましょう。動画に撮って練習し、それを見返しフィードバックを受けながら、ブラッシュアップを繰り返す…。こうしたサイクルを設定してみることが有効だと、本書は伝えています。

苦しさから逃げない人が一流になる

 このような訓練プロセスは、精神的な苦痛を伴い、決して楽しくありません。しかし一流になる人は、そこから逃げません。

 では、人はなぜ苦痛を引き受け、鍛錬を続けられるのでしょうか。『究極の鍛錬』は、そのためには、心の内面に目を向ける必要があると説きます。

 

膨大な努力をさせるものはいったい何だろうか。(中略)答えは、あなたが次の二つの基本的な問いに、どう答えるかにかかっている。あなたが本当に欲しいと思っているものは何か。あなたが本当に信じているものは何か。

(『究極の鍛錬』 283ページ)

 

 偉業を成し遂げるためには、外的報酬ではなく、自分が深く渇望する何かを知る必要があります。映画『国宝』の主人公も、ただ成功や名声を求めていたわけではありません。彼が追い続けたのは「ある景色」 ―― 芸を極めた先に存在する、誰にも奪えない世界でした。

仕事の現場に「究極の鍛錬」を落とし込む

 『TOPPOINT』の編集部では、新人トレーニングとして、「業務外で週5冊のビジネス書を読む」というものがあります。子育て中の私にとって、この訓練は決して軽いものではありません。精神的な負荷と時間の捻出との戦いです。

 毎朝1時間早く起き、バスや車の移動中のスキマ時間を拾い、時には苦手なジャンルにも向き合います。失敗も挫折もありますが、それでも続けられているのは、「編集者として生きる自分に必要な訓練だ」というモチベーションがあるからかもしれません。

 『究極の鍛錬』には、次の一節があります。

 

「偉大な業績」を上げた人はみなその過程で大変な困難に遭遇している。そのことに例外はない。もし正しい訓練を行えば問題は克服できると信じているなら、少なくともこれまでにないほど素晴らしい能力を手に入れることができるだろう。

(『究極の鍛錬』285ページ)


 仕事が苦しいときほど、自分の心を見つめたい瞬間です。
 その苦しみは「無意味な負荷」ではなく、「目指す自分に必要な訓練」かもしれません。視点を変えるだけで、困難は“成長に必要な燃料”に変わります。

 どんな天才も偉人も、たくさんの犠牲と困難を乗り越え、自らの信念に突き動かされながら歩んできました。『究極の鍛錬』は、その真実を突きつけ、努力する力を私たちに取り戻させてくれる1冊です。
 年の瀬にこの本を手にすることは、2026年に向けて自分を鍛え直す、最高の起点となるはずです。

(編集部・福尾)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2019年1月号掲載

究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる

タイガー・ウッズやジャック・ウェルチ。我々はこうした人々を「天才」の一言で片づけがちだ。だが、彼らの偉業は天賦の才ではなく、上達するために考え抜かれた、辛く厳しい努力の賜物だという。この「究極の鍛錬」と著者が呼ぶ、ハイパフォーマンスを上げる人々に共通する要素を、心理学の成果を基に解明する。

著 者:ジョフ・コルヴァン 出版社:サンマーク出版 発行日:2010年5月
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