
攻撃の応酬が続く、イランとイスラエル
イランとイスラエルの間で武力衝突が激化しています。
2025年6月13日、イスラエルはイラン各地の核関連施設などに対する軍事攻撃を開始。これに対してイランも反撃を行い、双方に多数の死傷者が発生しています(「イスラエルが“再び攻撃” イラン核施設内部では汚染発生か」/NHK NEWS WEB 2025年6月13日)。
さらに6月22日には、アメリカ軍がイランの地下核施設に対し、「バンカーバスター」と呼ばれる特殊兵器を使用。これをきっかけに、中東地域での更なる軍事衝突の拡大が懸念されています(「アメリカ イランの3つの核施設攻撃 イランは報復する可能性」/NHK NEWS WEB 2025年6月22日)。
なぜ、イランとアメリカ・イスラエルは対立しているのでしょうか?
その答えを知るヒントとして、今週は『イスラム世界に平和は来るか? 抗争するアラブとユダヤ、そしてイラン』(小滝 透 著/春秋社 刊)をPick Upします。
イランの「オクトパス戦略」
著者の小滝透氏は、イスラム世界を長年にわたり取材・研究してきたジャーナリストです。氏は、2024年6月刊行の『イスラム世界に平和は来るか?』で、イランとイスラエルとの対立が激化する可能性を早くから予見していました。
その背景にあるのが、イランが1979年のイスラム革命以降、アメリカ・イスラエルに対抗するために展開してきた、「オクトパス戦略」と呼ばれる手法です。オクトパス戦略とは、まるでタコの足のように中東をはじめとする各地に影響力を広げる外交・軍事戦略のことです。
外交的には中国やロシアと接近し、軍事的には革命防衛隊を派遣して中東諸国のシーア派支援を行なう中で対抗しようと試みている。具体的には、イラクでの民兵支援、シリアでの政権支援(アサド支援)、レバノンでのヒズボラ支援、イエメンでのフーシー派支援、ガザ地区でのハマス支援(中略)等がそれに当たる。これが俗にオクトパス戦略と呼ばれるものだ。タコ足の如く八方に手を伸ばし、革命の輸出をしているからだ。
(『イスラム世界に平和は来るか?』26ページ)
ヒズボラやハマスといったイスラム組織の名前を、イスラエルへの攻撃に関する報道で耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。著者は、こうした組織の背後にはイランの「革命防衛隊」がいると指摘しています。
そして、「タコの足」だけを叩いても限界がある以上、いずれイスラエルが「タコの頭」であるイランを攻撃する可能性が高い、と予測します。特に、イランの核開発が佳境に入った段階では、「タコ頭への攻撃は必須になる」とも述べています。
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『イスラム世界に平和は来るか?』では、イランとイスラエルの武力衝突が生じた背景以外に、アラブ諸国がイスラエルとの中東戦争で負け続けた意外な理由 ―― 時間にルーズで、個人を組織化できていない! ―― にも触れられています。
さらに、中東・イスラム世界の歴史的背景や、一神教の思考などについても詳しく解説されています。緊迫した状況が続く中東情勢。そのニュースの背後にある文脈を理解し、グローバルな視点を養う上で、格好の1冊といえるでしょう。
(編集部・油屋)
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