今月9日、石破茂新総理のもと、衆議院が解散となりました。第50回目となる衆議院議員選挙(衆院選)は、本日15日に公示され、27日に投開票が行われます。
「政治とカネ」問題への関心が高まる中で行われる選挙とあって、テレビやインターネット、SNSなどで情報収集しようと思っている方はきっと多いことでしょう。
2013年にネット選挙(インターネット等を利用した選挙運動)が解禁されてから、各党はインターネットを活用した呼びかけに力を入れています。今回の衆院選でも、各党の公約や立候補者の声、有権者の意見などがネット上に溢れることが予想されます。
ネット選挙には、有権者が時間や場所に制限されずに情報収集できるといったメリットがある一方で、様々なデメリットも存在します。それを知る上で参考になる本として、『操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』(ジェイミー・バートレット 著/草思社 刊)を今回はPick Upします。
人は数字に騙されやすい
本書の著者であるジェイミー・バートレット氏は、イギリスのシンクタンクで働く、データテクノロジーの専門家です。
バートレット氏は「デジタル・テクノロジー」 ―― ソーシャルメディアのプラットフォームやビッグデータ、人工知能(AI)などは情報量を増やし、人々の生活を豊かにしたと語る一方で、「民主主義にとってそれは、必ずしもよいものとはいえない」とも述べています。
その理由の1つとして、人は数字やデータに簡単に騙されてしまうことを挙げています。
やっかいな判断を迫られたとき、人間(そして、私の経験では政府関連部門)は、どんなに不十分でも、数字やデータにころりと影響されてしまう。数字は純粋にして正確、判断無用な解答だという思い込みが、人の判断力を麻痺させるのだ。
(『操られる民主主義』 54ページ)
この問題については、2024年9月号の『TOPPOINT』で紹介した本、『数字まみれ 「なんでも数値化」がもたらす残念な人生』(ミカエル・ダレーン 他著/東洋経済新報社 刊)でも似た指摘がされています。
同書によれば、数字があると、人は「あまり深く考えなくなる」そうです。
数字が含まれたニュースを聞いた被検者の脳では、前頭前野の活動が少ないことがわかった。前頭前野は、共感を育み、視点を変えて物の見方に変化をつける能力をコントロールする脳の部位だ。研究者たちはこの実験の結果として、数字が被検者の脳の活動を停止させたとまで書いている。
(『数字まみれ』 187ページ)
つまり私たちは、数字を簡単に受け入れてしまうのです。例えば、「公約の90%を達成」といった実績を強調する候補者がいた場合、十分な検証を行わず、すぐに「この人は立派だ」という結論に至ってしまうかもしれません。
しかし、語られる数字はいつも真実とは限りません。中には主観や誇張が入っていて、実態を正しく反映していない可能性もあります。数字が提示されている場合は、そのまま鵜呑みにせず、その数字が本当なのか、冷静に分析しようと心がけることが大切でしょう。
アルゴリズムは「意見の偏り」を生む
私たちが気を付けるべきなのは数字だけではありません。デジタル・テクノロジーのアルゴリズム(コンピュータを実行させるための命令)にも注意を払う必要があります。なぜならそこには、「意見の偏り」が潜んでいるからです。
アルゴリズムは、開発を担当した者が構成した問いからかならず演算を始める。その結果、アルゴリズムは開発者の偏向を再生する傾向からどうしても逃れられない。
最近のアルゴリズムはいずれも、カリフォルニア州北部で暮らす富裕な白人技術者によって開発され、所有されている。(中略)アルゴリズムは決して中立ではないのだ。(『操られる民主主義』 54~55ページ)
よく知られているように、プラットフォーム事業者は利用者の閲覧履歴などを収集・分析して、関心を持ちそうなコンテンツを各人に向けて表示しています。これにより、インターネット上の膨大な情報・データの中から、私たちは自分が興味・関心のある情報を素早く入手することができています。
ただしこれは、言い換えれば、ユーザーが意識しない限り、興味・関心のある情報「だけ」にしか触れなくなる可能性があるということです。こうした、自身の考え方や価値観の中で孤立する情報環境のことを「フィルターバブル」といいます。
選挙期間中にフィルターバブルに陥ると、自分の支持する政党・候補者が発信する情報ばかりが表示され、反対意見を知る機会が少なくなる可能性があります。選挙期間中、インターネットやSNSを通じて情報収集する際には、知らないうちに、自身がこうした環境に置かれるかもしれないことを頭の片隅に置いておいた方がいいでしょう。
民主主義を守るアイデア
では、上記のような課題を克服するには、どのような対策をとればいいのでしょうか?
『操られる民主主義』のエピローグでは、参考になる20のアイデアが提示されています。例えば、1番目には「個人としての意見を持つ」ことを挙げています。
自分で考えるという義務を、第三者に委ねることに警戒しなくてはならない。目先の助けになりそうでも、長い目で見れば判断力は衰退していく。
(『操られる民主主義』 256ページ)
ネット上には様々な意見が飛び交っています。選挙戦が本格化すれば、その量はさらに増えることでしょう。あまりの情報の多さに、著名人のコメントやネット上の意見をそのまま受け止めて「自分の意見」としてしまう人もいるかもしれません。
ただ、このアイデアに従うならば、知り得た情報は自分の意見を導くために活用する、というスタンスであるべきです。周囲に操られないように、意思決定は自分で下すようにしましょう。
また、20のアイデアの中には、「内なる反響室(エコーチェンバー)を粉砕せよ」というものもあります。
ネット上の振る舞いをめぐり、他人を非難するのは簡単だが、礼儀をわきまえる義務は誰にでも伴う。そして、それに向けて考えを一致させていくなら、出発点として、相手の意見にきちんと耳を傾けていくことが有効だ。(中略)
政治では、活発な議論が交わされてしかるべきだが、別の考えに基づく相手の意見を尊重するという基本的な信条のうえに政治は成り立つ。自分の声だけがこだまする内なる反響室を打破するためには、別のニュースソースを探したり、あるいはフェイスブックの違うグループに加わったり、新たなニュースフィードの登録など、意識して努力を重ねなくてはならない。(『操られる民主主義』 258ページ)
悲しいかな、インターネット、特にSNSでは、意見の異なる人に対する誹謗中傷を少なからず見かけます。おそらく、今回の衆院選でもどこかで起こりうるでしょう。ですが、考えや思想信条が違うからといって、相手を非難していい理由にはなりません。上記のアイデアを胸に、情報収集や議論の際には、相手の意見を尊重することを忘れないようにしたいものです。
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ネット選挙が進む今、『操られる民主主義』は、自分の意思を明確にするだけでなく、民主主義とデジタル・テクノロジーの現状について理解し、何が問題であるのかを見通す上で、きっと参考になる1冊です。まだお読みでない方は、ぜひご一読ください。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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