2026年9月号掲載
何もしない時間 脳の隠れた機能を最大限生かす
Original Title :The Brain at Rest (2025年刊)
著者紹介
概要
散歩中、突然ひらめくのはなぜか。その秘密は、脳の神経回路「デフォルトモード・ネットワーク(DMN)」にある。ぼんやりしている時、DMNが活性化し、知性や創造性、生産性を高めるのだ。そんな脳の隠れた機能に神経科学者が着目。「何もしない時間」がもたらすメリットや、脳を休ませ、その力を引き出す方法を明らかにする。
要約
マインドワンダリングの正体
何もしないこと ―― つまり「活動のない状態」は、長らく成功の対極にあるとされてきた。だが、人は「活動しているから成功する」のではなく、「活動していないから成功する」のだとしたら?
何もしない時、脳は最もよく働いている
何もしない、つまり「ぼーっとしている安静状態」の時に働くのが、私たちの脳の「デフォルトモード・ネットワーク(DMN)」である。
これは、脳の複数の領域にまたがるニューロン(電気信号や化学信号で情報をやり取りする脳細胞)がつくる神経回路を指す。このネットワークが働くことで、私たちは空想にふけったり、未来を思い描いたりできる。
DMNを活性化させると、知性や創造性、社会的共感、生産性が向上する。ただし、これが活性化されるのは、私たちが作業に集中していない時、つまり心が自由にさまよっている時に限られる。
さまよう思考こそ脳の本質
何かの作業をしている時、それを中断して宙を見つめ、頭の中を巡る考えに注意を向けてみると、自分の意識が必ずしも今この瞬間に向けられているわけではないと気づく。過去を思い返したり、未来について考えたりしているかもしれない。
神経科学の用語では、これを「課題非関連思考」という。一般には「マインドワンダリング」と呼ばれ、私たちは起きている時間の25~50%をこれに費やしている。
長年、マインドワンダリングは役に立たないばかりか、危険なことだと考えられてきた。実際、運転中の事故を招いたり、学習能力や日常生活でのパフォーマンスを低下させたりする恐れがある。
だが近年の研究によって、マインドワンダリングを正しく利用すれば、知能や創造性、社会的共感や感情処理、そして未来を予測する能力を高められることが証明されている。
マインドワンダリングの仕組みはまだ解明されていないものの、DMNが重要な役割を果たしていることはわかっている。DMNの領域でマインドワンダリングに最も関わりがあるのは内側側頭葉だ。これは、視覚、感情、記憶、言語などの機能や、発散的思考、視覚デザイン、詩の創作といった創造性を処理するサブシステムである。
「ソリチュード(孤独)」の力
このDMNを活性化させるためのカギとなるもの。それが「孤独」だ。