2026年6月号掲載
「数値化」中毒 なぜ手段が目的に変わるのか
- 著者
- 出版社
- 発行日2026年4月1日
- 定価1,133円
- ページ数227ページ
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著者紹介
概要
売上、KPI、上司の評価、さらには健康診断の数値まで。私たちは日々「数字」に追い立てられている。一方で、数値や指標を重視するがゆえに様々な問題が生じることも。人はなぜ、数値に依存してしまうのか。心理学者が、自身の知見と身近な事例を基に考察するとともに、数字に振り回されないための心構えと対策を伝える。
要約
指標が目的化すると、その意味が失われる
現代に生きる私たちは、「数字」や「数値」に追い立てられながら生活しているといっても過言ではない。また、どんなものであれ「数値化することが良い」という考え方も広まっている。
では、人が数値を追い求めると何が起きるのか。
進捗を数値化すると起こること
日常の様々な場面で「測定」や「数値化」が行われ、その結果が意味をもつようになると、私たちはその数値を目指すようになる。
例えば、「KPI」(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)というものがある。目標達成に向けての進捗状況を測定するための指標だ。
1990年代、米ニューヨーク州などでは、心臓外科手術における「死亡率」を病院や外科医ごとに公表するという制度を導入した。その目的は、患者が病院や医師を選択しやすくすることだった。
数値で評価されるので、どこに行けば良い治療が受けられるのかがわかる。また死亡率がKPIとして機能することで、医療を提供する機関にも「死亡率が低い」イコール「良い病院」という枠組みが定着していく。
しかしこの制度が導入されると、別の問題が生じるようになった。病院は重症の患者を避け、手術に成功しやすい患者ばかりを受け入れるようになったのだ。このように数値を追うことが目的になると、その数値は現実を映す「良い測定指標」ではなくなっていく場合がある。
短期的な目標を重視し、長期的な価値を軽視する
こうした現象は、企業の世界でも見られる。
売上などの数値は、進捗や成果の進み具合を評価するKPIとしてよく用いられる。営業部門であれば、KPIが個人の評価やボーナスに直結することもある。すると従業員の意識は自然と数字に向かい、「顧客により良い価値を届ける」という本来あるべき目的が次第に薄れていってしまう。
また、このような状況は、組織全体の短期的な目標への焦点づけを助長していく。上場企業では短期的な業績や業績予測が、株価を左右する重要な指標とされる。こうした状況下では、経営層は「今期の数字をどう整えるか」に強く引き寄せられ、研究開発や人材育成といった長期的な目標を後回しにしがちになるのではないだろうか。
グッドハートの法則
金融政策の研究で知られるチャールズ・グッドハートは、「政府が経済指標を使って金融システムを管理しようとすると、人々がその指標の動きを予測して行動を変えるため、政策の効果が失われてしまう」と指摘した。