2021年1月号掲載

アメリカは正気を取り戻せるか

Original Title :Twilight of American Sanity:A Psychiatrist Analyzes the Age of Trump

コミュニケーション・心理学国際・世界情勢社会・政治
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著者紹介

概要

ドナルド・トランプの台頭は、アメリカ社会のクレイジーな精神を映し出したもの ―― 。環境問題や格差などの社会問題に対する彼の態度は国際社会を翻弄し、世界の政治経済に混乱を生じさせた。このような人物が大統領に選ばれた背景には何があるのか。アメリカ社会に潜む病理とは? 精神医療の世界的権威が鋭く分析する。

要約

クレイジーなのはトランプではなく我々である

 ドナルド・トランプがアメリカ合衆国大統領に選ばれたことに、誰もが驚いた。大声を張り上げ虚勢を張った彼の態度は、アメリカの最高司令官にふさわしくない悲惨な姿だった。

 無能な大統領、陰謀論者の大統領、気まぐれな大統領…。こうした非難に値するすべての特質を、これほど完全に体現した大統領はこれまで1人としていなかった。

トランプは精神疾患を患っているわけではない

 トランプのメンタルヘルスの問題は、インターネットやテレビのニュース番組で話題となった。また、政治評論家や政治家らが、精神医学のバイブルとされる『精神疾患の診断と統計マニュアル(DSM)』を読み、皆が「トランプは自己愛性パーソナリティ障害だ」と言うようになった。

 間もなくそこに、多くの心理学者や精神科医が加わり、多数の請願が出された。その中で5万を超える署名を集めた請願は、こう明言している。

 「我々精神保健の専門家は、ドナルド・トランプが、アメリカ合衆国大統領の職務を十分に果たすことを精神的に不可能にする深刻な精神疾患の症状を呈していると、専門家として固く信じている。また、アメリカ合衆国憲法修正第25条第4項に従い、大統領の罷免をここに謹んで請願する」

 私は、DSM-Ⅲに掲載されている、自己愛性パーソナリティ障害の診断基準を執筆した。その専門家としての立場から見ると、トランプを診断する非専門家は皆、誤りを犯してきたといえる。

 自己愛性パーソナリティ障害の特徴(自分が重要であるという誇大な感覚を持つ、偉大であることにこだわる、常に尊敬されることを求める、他者への共感が欠如している…)が、トランプに当てはまっているとの彼らの見解は正しい。だが、トランプがいかに自己愛の強い人間でも、それによって彼が精神疾患にかかっていることにはならない、という点を理解できていないのだ。

 自己愛性パーソナリティ障害の診断で重要なのは、当人の行動が、臨床的に見て著しい苦痛や障害を当人にもたらすという前提条件があることだ。それがないと、多くの政治家や有名人が自己愛性パーソナリティ障害に当てはまることになる。トランプは他者に多大な苦痛を与えているが、自分がそうした苦痛を感じている兆候は見られない。

トランプを選んだ「我々」の問題

 トランプは、アメリカや世界にとって脅威である。それは彼が精神疾患を患っているからではなく、非常に困った人間だからだ。

 だが、人類の未来を決める者として、明らかに不適格な人間を選んだ「我々」はどうだろうか。我々が抱える問題すべてをトランプのせいにすると、あり得ないと思われた彼の出世を可能にした社会に根深く潜む病が見逃されてしまう。彼のことを「クレイジーだ」と言ってしまえば、我々は社会に潜む狂気との対決を避けることになる。

 正気でありたいと思うなら、まず我々が自分自身を洞察しなければならない。簡単に言えば、トランプがクレイジーなのではなく、我々の社会がクレイジーなのだ。

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