2025年12月号掲載
リミタリアニズム 財産上限主義の可能性
Original Title :LIMITARIANISM (2024年刊)
著者紹介
概要
今日の世界では、ごく一部の“超富裕層”が富を蓄積しすぎている ―― 。世界で広がる所得と資産の不平等の実態をもとに、「財産に上限を設ける」ことを説いた書だ。富の力が民主主義をも脅かしている現状に警鐘を鳴らし、社会に求められる変化を説く。著者は言う、誰も1000万ドル以上持つべきではない、と。
要約
「リミタリアニズム」とは
2022年、イーロン・マスクは、『フォーブス』が発表した長者番付のトップにランクされた。その時点で推定資産総額は2190億ドルだった。
彼のような億万長者(ビリオネア)は例外だと思うかもしれない。だが、長者番付には2668人のビリオネアがいて、平均資産額は47億5000万ドルだ。生涯賃金の時給に換算すると1時間あたり4万598ドル。アメリカの平均的な世帯の年収に相当する。
長い間、私は、これほどの富を個人が蓄積するのはおかしいと感じていた。そして10年にわたり極端な富について分析し議論した結果、超富裕層がいない社会をつくるべきだと確信した。
1人の人間がもてる財産の金額に上限を設けるべきだと考える。これを、私は「財産上限主義(リミタリアニズム)」と呼ぶ。
不平等の拡大
当たり前だと思われるかもしれないが、不平等には2つの側面がある。
貧しい者がますます貧しくなることで不平等が進行する場合がある。または、富める者がますます富を増やすことでも不平等は広がる。
前者は、目につきやすい。通りで路上生活する人や物乞いをする人が増えれば、気がつく。これに対し、裕福な人がさらに裕福になっても、私たちが日々目にする光景にそれほど変わりはない。
おそらくそういう事情だから、20世紀の最後の20年間に不平等が広がり始めたことに、ほとんどの人が気づかなかったのだろう。1970年代の終わり以降、金持ちはさらに金持ちになり、所得と資産の不平等が徐々に拡大していった。
貧困の根絶を目標とする国際NGOオックスファムが毎年発表する報告書には、世界の富の分配について衝撃的な統計が掲載される。例えば、2020~22年、世界の上位1%にあたる人が得た所得と資産の総額は、残り99%の人の2倍だった。
上限は「1000万」
こうしたことからすると、「十分な水準を超えて」富をもっている人がいる、という点については、まず異論は出ないだろう。では、多すぎる富をもっていることになるのは、どの地点か?
私は、1つの上限として、おおむね1人1000万を提唱している(ユーロでもドルでもポンドでもかまわない。正確な数字でなく桁数が問題だ)。