2025年9月号掲載
アメリカの新右翼 トランプを生み出した思想家たち
著者紹介
概要
今、アメリカで「新右翼」が頭をもたげつつある。従来の右派以上に、ナショナリズム、キリスト教的価値を重んじ、テクノロジーを積極的に受け入れる人たちだ。リベラルな価値観を批判する彼らは、社会をどう変えようとしているのか。アメリカ政治思想史の専門家が、トランプ政権の下、様変わりする右派の現状を読み解く。
要約
ポストリベラル右派とは
2025年1月、第2次トランプ政権が始まった。トランプの返り咲きを、アメリカの新しい幕開けとみるか、それとも終わりの訪れとみるか。どちらの見方にも、アメリカがこれまでとは違う何かに変容するのでは、という予感が込められている。
もちろん、トランプが大した成果を残さないまま、ホワイトハウスを去ることは十分にあり得る。しかし、広い意味での政治的成果を残す可能性はある。例えば、アメリカの価値観に大きな影響を及ぼすような思想の台頭をもたらし、社会や政治の変容が促されるということも考えられる。
変化の兆候は、共和党をはじめ右派の側で顕著だ。現在の新しい右派は従来の右派とは異なり、アメリカの思想的な基底である古典的自由主義に懐疑の目を向け、よりナショナリズムを重視し、よりキリスト教的価値を重んじ、よりテクノロジーを受け入れ、より極右との親和性を強めている。
このような右派の思想的な再編を捉えなければ、第2次トランプ政権の行く末は見えない ―― 。
権力に近づいたポストリベラル右派
2010年代、右派の中に「ポストリベラル右派」と呼ばれる思想潮流が台頭してきた。彼らは過去の右派と同様に、キリスト教保守が中心を占めており、とりわけカトリックが多い。
ポストリベラル右派は、今の段階では、保守の知識人たちの間の傍流でしかない。だが、第2次トランプ政権の副大統領J・D・ヴァンスは、彼らと密接に活動してきた。
ポストリベラル右派は、アメリカの体制それ自体を批判する。今日の急進的なリベラルや左派と対峙するためには、保守は古典的自由主義を含めたリベラリズム全般と手を切るべきだという。アメリカ建国の礎ともいえるジョン・ロック以来の古典的自由主義からの離脱を求めるところに、旧来の保守と一線を画す彼らの特徴がある。
また、ポストリベラル右派は市場や企業に敵意を抱いている。グローバル企業はリベラルの味方である。そうであれば、今や企業を味方につけた左派との戦争に立ち向かうため、自分たちは国家権力に全面的に依拠すべきである、と考えている。
パワーエリートやグローバル企業への不信
今、ポストリベラル右派をリードするのは、インディアナ州にあるカトリック系のノートルダム大学で教鞭をとる、パトリック・J・デニーンだ。
彼は自著『リベラリズムはなぜ失敗したのか』で、リベラリズムの成功こそが現代社会の様々な問題を生み出しており、今日の社会の病弊はリベラリズムを放棄することでしか治癒できない、と述べている。これが彼のスタンスだ。
デニーンは、アメリカは実際には強固な階級社会であり、それを隠蔽しながら階級格差を生み出し続けてきたのが、リベラリズムだという。彼によれば、リベラルなエリートたちはグローバル経済に便乗して勝者の立場を手に入れ、能力主義という美名のもとでその成功を自分の子弟に継承させる仕組み(大学がまさにそうだ)を作って社会を牛耳る一方、伝統に根差した文化のもとで生きている人々を敗者として見下しているのである。