2015年5月号掲載

「世界の警察官」をやめたアメリカ 国際秩序は誰が担うのか?

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著者紹介

概要

「アメリカは世界の警察官ではない」。2013年9月のオバマ大統領の発言により、国際社会における同国の影響力の低下が鮮明になった。中東でのイスラム国の台頭、欧州のウクライナ問題、中国の強引な海洋進出。これら「警察不在」の事態を招いたと言っても過言ではない、大統領の「警察官放棄」発言。その経緯を示すとともに、現在そして今後の世界を読み解く。

要約

今、何が起きているのか

 「割れ窓理論」という言葉をご存じだろうか。社会犯罪学者ジョージ・ケリングらの説だ。

 「建物の窓が壊されているのを放置していると、市民も当局もそうした風景に慣れてしまって、治安の乱れに注意を払おうとしなくなる。無秩序や無関心がさらなる犯罪を誘発し、新たな犯罪者も流入してくる。やがては他の正常な建物の窓もすべて壊されてしまう」という考え方である。

 1990年代、この理論に着目したニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニは「犯罪多発都市」、ニューヨークの改革に立ち上がった。

 治安・警察当局の態勢を強化。マフィアの摘発はもちろん、軽微な犯罪も厳しく取り締まった。こうした対策が功を奏し、見事に治安は回復した。

世界の「割れ窓」が増えている

 今の世界で起きていることは、この「割れ窓」のエピソードと裏返しのプロセスのように思える。

 2013年9月、オバマ大統領がシリア問題に絡んで「アメリカはもはや世界の警察官ではない」と演説して以降、国際社会全体に「警察不在」の不穏な空気が広がっている。

 中東のシリア、欧州のウクライナなどで国際社会の秩序やルールを力で踏みにじる行動がまかり通るようになった。アジアでは、南シナ海で中国とベトナムやフィリピンとの紛争が燃え盛り、東シナ海でも尖閣諸島で日中の対立が先鋭化した。

 アメリカは、冷戦時代には西側自由陣営の盟主として共産主義の拡大に目を光らせ、冷戦終結後も世界に「にらみ」をきかせてきた。そうした責任と指導力を放棄して世界の「割れ窓」を放置すれば、これまでの積み重ねは崩壊してしまう。

シリア問題と「レッドライン」

 演説の契機になったのはシリア問題だ。シリア危機は「アラブの春」と連動している。2010年末、チュニジアの青年が政府の圧制に抗議して焼身自殺した事件を発端に、中東・北アフリカ各地で民主化を求める市民の反乱が広がった。

 翌11年、シリアでも反政府デモと民主化運動に火がつく。これに対し、アサド政権は力で抑え込む強圧策をとったため、内戦状態に陥った。

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