2025年2月号掲載

現代日本人の法意識

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著者紹介

概要

日本人の“法意識”は前近代的だ! 法ではなく人による支配を重んじる、「人質司法」など不適切な手続が横行している…。元判事にして法学の権威である著者が、日本人特有の法意識に焦点を当てて論じた。冤罪など日本社会が抱える様々な問題を取り上げ、未熟な法意識こそがそれらを引き起こしている元凶の1つだと指摘する。

要約

法意識について考えることの意味

 「法意識」とは、法に関する人々の知識、考え方や感じ方、また、それに対する態度や期待を包括的に表現するコトバである。

 日本人には「日本人特有の法意識」が根付いている。そして、この特有の法意識こそ、種々の法的な問題を引き起こす元凶の1つにほかならない。

日本における近代的法意識の未熟さ

 明治時代に近代的法制度が導入されるまで、日本には現在の民法、商法等に相当する民事系の法典はなく、江戸時代には各奉行が適宜の裁判を行っていた。刑事法の領域は「公事方御定書」がカヴァーしていたが、民事法の領域では、裁判は先例や慣習に基づいていたのである。

 つまり、江戸時代の法はもっぱら「統治と支配のための法」であった。従って、民事の比重は軽く、刑事についても、先の公事方御定書は人々に知らされるべきものではないとされていた。また、江戸時代までの日本法には、権利という一般的な概念がなく、個人の私権は重視されなかった。

 “近代的法意識が根付いている程度”という側面からみる限り、日本と欧米諸国では、非常に大きな差がある。

 これは、ある意味仕方のないことだ。明治時代に西欧法を大急ぎで身につけた日本人の法意識と、長い歴史の中で精緻な法体系を練り上げてきた西欧の人々のそれとの間に、近代的法意識という側面で大きな差があるのは、当然ともいえる。

法の歴史における切断

 日本人の法意識を考える上で見逃せないのが、法の歴史にいくつもの「切断」があったことだ。

 日本の法は、元々の固有法が発展してきたというよりも、外国から移入された、基盤も思想も異なる法が折り重なって形成されてきた側面が強い。

 明治の制定法は、こうした法を一挙に覆すような形で流入してきたヨーロッパ法に基づいている。だがそれは、不平等条約の撤廃を第一の目的として成立したことなどから、人々の、特に庶民の法意識とはかけ離れたものだった。

 それでも、明治から大正の日本にはヨーロッパ近代を咀嚼しようという努力があった。しかし昭和期に入ると、第一次世界大戦後の政治・経済情勢の影響もあって、ファシズム化の動きが顕著となり、萌芽の段階にあった民主主義も封じ込められた。太平洋戦争敗戦後についてはアメリカ法の影響が決定的であり、日本国憲法がその典型だ。

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