2024年4月号掲載
人口は未来を語る 「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題
Original Title :TOMORROW'S PEOPLE:The Future of Humanity in Ten Numbers (2022年刊)
著者紹介
概要
アフリカの人口爆発、移民の増加、高齢者の急増による経済成長の鈍化…。今後の世界のあり方は、「人口動態」がカギを握っている。人口学者の著者は、今日、人口動態は経済発展ではなく、文化や価値観で決まると指摘。データを基に、人口の変動、未来を語る。少子高齢化に拍車がかかる日本の将来を考える上で、示唆に富む書だ。
要約
人口動態が世界に及ぼす影響
19世紀末にヨーロッパが世界を植民地化して支配したのは、ヨーロッパ大陸の人口急増と流出があってのことだった。20世紀にアメリカとソビエトが超大国になったのも、ヨーロッパをしのぐほどの人口急増があってのことだ。国家の盛衰は、人口動態と切り離して語ることはできない。
アフリカの人口爆発
今日、アフリカの人口大増加は、地球上で最も重要な人口動態の1つだ。これによって、地球全体の政治、国際関係、経済、文化などが一変する可能性さえある。
国連の推計によると、アフリカの人口は21世紀末までに約40億に達する。1950年には世界人口の14人に1人がサハラ以南に住んでいたが、2100年にはそれが3人に1人以上になる。この人口大増加を牽引しているのは、高い出生率と死亡率の低下だ。
今後、アフリカの平均寿命は着実に延びつづけ、同時に死亡率は低下していくだろう。これに伴い、ヨーロッパ諸国への移住が増えると考えられる。それがどの規模になるかは、アフリカの経済的・政治的発展の速度とヨーロッパの移民に対する姿勢に左右されることになる。
1世代ごとに人口が半減するシンガポール
今、先進国と一部の発展途上国に、ある不安が影を落としている。出生数が少なすぎるのだ。
最たる例がシンガポールで、1人の女性が持つ子供の数を平均すると1になる。これは、1世代ごとに人口が半減することを意味している。
1960年代前半、この国の女性は1人あたり5人以上の子供を産んでいた。だがその後、出生率は急に下がり、1970年代末には2人未満まで減る。
この時、シンガポールで起こっていた変化は、女子教育の普及である。一般的に言うと、高学歴の女性は自分自身の目標やキャリアを追求しようとするので、あまり多くの子供を持とうとしない。
シンガポール与党の人民行動党は人口政策を重視していて、最初は小家族を奨励し、住宅規制や教育制度などで大家族を抑制した。だが1980年代前半に高学歴層の出生率が下がりはじめると、優秀な人々に対して出産を奨励するようになった。
ところが政府の思惑に反して、小家族化が社会全体に広がったため、政府は全体的な出産奨励政策へと重点を移す。そして出産奨励金や税制優遇措置を打ち出したが、効果はわずかだった。
シンガポールの例からわかるのは、政府の努力で出産を抑制することはできるかもしれないが、出産を奨励するのはかなり難しいということだ。