2022年10月号掲載
エコシステム・ディスラプション 業界なき時代の競争戦略
Original Title :WINNING THE RIGHT GAME:How to Disrupt, Defend, and Deliver in a Changing World
著者紹介
概要
今、「業界」の垣根が消えつつある! 薬局が小売事業だけでなく、医療サービスや医療保険を手がけるなど、業界の枠を超えた「エコシステム」(生態系)が築かれつつあるのだ。こうした世界で勝つには、エコシステムを理解し、自社が生み出す価値を定めて、行動する必要がある。そのための戦略を、具体的な事例とともに説く。
要約
誤ったゲームでの勝利は、敗北を意味する
競争の前提条件が変わりつつある。
かつて企業間の競争は、ある決まった製品やサービスを提供する、特定の業界内で行われていた。しかし今や、競争の舞台は「価値提案を提供するエコシステム(生態系)」へと移りつつある。
これまでの競争は、ライバル企業と競った。各企業がコスト効率と品質で優位に立とうとバラバラに行動していた。だが、今日では、これまで思いもしなかったパートナーを集め、個々の企業では実現できない方法で価値創造を行っている。
この変化は、単に競争に拍車をかけるだけではなく、競争の基盤を根本から変える。それを象徴するのが、コダックの破産だ。
コダックの崩壊
コダックは2012年1月、米連邦破産法11条の適用を申請した。そんな同社にまつわるお馴染みのストーリーは、次のようなものだ。
―― コダックは利益率の高いアナログ写真事業に固執したせいで、ソニーなどの企業が、世界各地でデジタルカメラやデジタルプリンターへ進出するのを許した。近視眼的な経営陣が対抗策を講じるも奏功せず、結局、崩壊することとなった。
現在、コダックの事例は「成功にあぐらをかくな」という教訓となっている。だが、こうした指摘は間違いだ。実は、コダックは奇跡的な変革を成功させ、デジタル市場の勝者となっていた。
コダックは、2005年までにデジタルカメラの売上で米国1位となった。同時に、デジタル時代に適応するため、2006年には全世界のフィルム工場を閉鎖した。また、デジタルプリントの分野でも成功し、2010年までにインクジェットプリンター市場で4位にのし上がった。
何を間違えたのか?
このようにコダックはデジタル分野で成功したのだ。だが、それでも崩壊は起こった。なぜか?
コダックは、インクジェットプリンター市場で4位になるなど、「デジタルプリント市場」で重要なプレイヤーとなっていた。しかし、進化するデジタル化が、写真の撮影やプリントだけでなく、その消費方法までも変えたことで、デジタルプリント市場自体が崩壊したのだ。
すなわち、同社が破綻したのは、デジタルで写真を鑑賞・共有することが主流となり、デジタルプリント自体が不要になったことが原因だった。