2022年7月号掲載
THINK AGAIN(シンク アゲイン) 発想を変える、思い込みを手放す
Original Title :THINK AGAIN (2021年刊)
著者紹介
概要
本当に頭の良い人とは、「考えること」よりも「考え直す」ことのできる人 ―― 。今日、情報技術の進歩により、日々膨大な情報が生まれ、すぐ古くなる。今の時代を生き抜くには、既存の知識や考えを常に見直すことが欠かせない。そんな現代社会に必須ともいえる「再考する」ことの重要性、そして発想を変えるための方法を説く。
要約
「再考する」ことの重要性
知性とは、考える・学ぶ能力だとされている。しかし、変化の激しい時代を生きるために、考えること・学ぶこと以上に貴重な認知スキルがある。
それは、「考え直す、学びほぐす(知識をリセットし、学び直す)」能力だ。この「再考する」スキルを身につければ、仕事においても生活においても、よりよい成果を上げられる。
発想を変え、新たな観点から見つめ直すことで、それまで解決できなかった問題の答えを見つけ、新たな問題に取り組めるはずだ。
「ブラックベリー」開発者の明暗
再考の大切さを示す例として、マイク・ラザリディスの成功と凋落がある。
かつて彼が開発した、ワイヤレスのEメール受送信のためのデバイス、「ブラックベリー」は大人気を博した。2009年夏には、アメリカのスマートフォン市場のほぼ半分を占めていた。ところが、iPhoneが登場するとブラックベリーは衰退の一途を辿り、2014年までにそのマーケットシェアは1%以下に急落した。
ラザリディスは共同創業者であり、ブラックベリーの技術・製品開発において全責任を担っていた。彼が固定観念にとらわれず、考え直すことができたなら、衰退を阻止できたかもしれない。
画期的なiPhoneの登場で市場が沸いても、彼は自分の信念を崩さず、過去に一世を風靡したブラックベリーの機能にこだわり続けた。人々が求めているのは、仕事用のメールや通話のためのワイヤレス端末で、ホームエンターテインメント用のアプリを搭載したポケットサイズのコンピューターではない ―― そう信じて疑わなかった。
社員から様々な提案があっても、Eメールにこだわり、試そうとしなかった。彼の保守的な見方により、同社は成長のチャンスを逃してしまった。彼の知性は、疫病神だったのかもしれない。
「脳の処理速度」と「思考の柔軟性」の関係
どれだけ高い能力を持っていても、考えや見方を変えようとする意思がなければ、再考する機会を見過ごしてしまう。ある研究によると、知能指数テストのスコアが高ければ高いほど、既成概念にとらわれやすいという。また、近年の複数の実験では、頭の回転が速い人ほど、信念を改めることに苦労することが示唆されている。脳の処理速度が速いからといって、柔軟な思考の持ち主であるとは限らないのだ。
ある研究で、「数学の達人はより優れたデータ分析力を持っているか」について調査が行われた。結論から先に言うと、数学の達人のデータ分析力は優れている。ただしそれは、データの内容が当たり障りのないものの場合だ。
もしデータの内容が、強い感情を引き起こすイデオロギー的な問題(例えば、アメリカの銃規制)に関するものだとしたら、どうだろう?