2021年10月号掲載

ナラティブ経済学 経済予測の全く新しい考え方

Original Title :NARRATIVE ECONOMICS:How Stories Go Viral & Drive Major Economic Events

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著者紹介

概要

経済の変化は、「ナラティブ」の理解なくして語れない ―― 。“物語”と同義ともされるナラティブは、時に人々の決断を左右し、流行や狂乱を生む。例えば、ビットコイン。その熱狂をもたらした一因はナラティブだったと、ノーベル経済学賞受賞者の著者は指摘。これら様々な実例を交え、経済を動かす物語の力を読み解いていく。

要約

ナラティブとは何か?

 「ナラティブ」という言葉は“物語”と同義だ。だが私は、この言葉を次のように使いたい。

 「ある社会、時代などについての、説明や正当化を行う記述のための物語や表象」

 口承やニュース媒体、ソーシャルメディアを通じて広がる、感染性のある通俗物語、すなわち通俗ナラティブは、しばしば人々の決断に影響する。例えば、いくら貯蓄するか、大学に行くべきか就職すべきか、といった決断だ。

経済ナラティブ

 そして経済ナラティブというのは、人々が経済的判断をするやり方を変えそうな、感染性のある物語を指す。経済的判断とは、事業でリスクを負うか否か、変動の激しい投機的資産に投資するか否か、といった判断だ。

 経済ナラティブは、その時代の経済的な結果に影響を与える。例えば、「住宅価格は絶対に下がらない」という考えは、テレビ番組の金持ち住宅転売物語と関連している。「黄金が最も安全な投資だ」という発想は、戦争と恐慌の物語に付随している。こうしたナラティブは、感染性の要素を持つ。

 究極的に、ナラティブというのは文化や時代精神、経済行動における急変の大きなベクトルである。そして時には、ナラティブが流行や狂乱と合体する。目端の利いたマーケターやプロモーターたちが、それを自分の儲けにつなげようとしてナラティブを増幅するからだ。

専門的ナラティブ

 専門的なナラティブもある。これは知識人のコミュニティで共有されるもので、複雑な概念を含むが、それがより広い社会の行動に影響する。

 そうした専門的ナラティブの一例が、「投機価格のランダムウォーク理論」である。この理論は、「株式市場の価格はあらゆる情報を反映しているので、市場よりも高い収益を得ようとする活動は無駄だ」と主張する。

 たまにこうした専門的ナラティブが通俗ナラティブに翻訳されるが、世間はしばしばそうしたナラティブを歪める。

 例えば、ある歪められたナラティブは「国内株式市場の長期保有戦略こそが最高の投資判断だ」と述べる。「長期保有戦略は学術研究の結果だ」というのが通俗的な考えだが、実はこのナラティブは専門家の常識とは相容れない。

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