2016年7月号掲載

新しい幸福論

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著者紹介

概要

この30年弱で、日本の貧困率は12%から16.1%に。国民の所得の格差は拡大している。こうした中、どうすれば幸福に生きられるのか。格差研究の第一人者が、経済学および哲学、社会学などの観点から考察した。貧困を生む社会的背景、格差是正の現状などが述べられるとともに、心豊かな人生を送るためのヒントが示される。

要約

ますます深刻化する格差社会

 近年、トマ・ピケティの『21世紀の資本』が先進国での格差拡大に警鐘を鳴らした。日本もアメリカほどではないが、格差が拡大しつつある。

日本と欧米の格差の現状

 1970、80年代頃から、日本、アメリカ、ヨーロッパという3地域のすべてで高額所得者の所得が上昇したことが、ピケティの報告からわかる。これに関して、2つの点を指摘しておこう。

 第1は、トップ10%の高額所得者に注目すると、3地域ともに高額所得者の所得が上昇して格差は拡大した。その拡大の様相はアメリカが一番激しく、日本は2番目である。つまり日本は、ヨーロッパより大きい格差の拡大を経験した。

 第2に、トップ0.1%という極端に高い所得を得た人に注目すると、日本とヨーロッパではほぼ平行線で推移しているが、アメリカでは1980年代後半から急上昇している。これは、アメリカのトップ経営者がこの頃から非常に高い所得を稼ぎ始めたことによるものである。

日本の貧困層

 一方、貧困については、厚生労働省の調査を見ると、日本の貧困者の数は増加している。ここ30年弱の間に貧困率(国民の何%の人が貧困であるかを示す比率)が12.0%から16.1%に増えた。

 また、生活保護基準額以下の所得しかない人の数は、2000年前後で約14%と推計されている。

 2010年度の主要先進国の相対的貧困率を見ると、アメリカが最も高く(17.4%)、日本は2位(16.0%)。ヨーロッパ諸国よりもかなり高い。

 換言すれば、「貧困大国」日本なのである。

貧困を生む社会的背景

 戦後の約30年間、日本は経済の復興と成長という目標を掲げ、国民一体となって必死に働き、さらにそこに入れない人をできるだけ出さないという社会的な合意で行動していた。例えば企業は、従業員をできるだけ解雇せずに、年功序列制によって賃金分配にも格差をつけなかった。

 ところが、1980年代後半のバブル期を経て、日本社会は一変した。経済が豊かになったので、すべての人が1つの目標に向かって進むという風潮は弱まった。そして、低成長期に入り企業の体力が弱まると、賃金を抑制し、非正規労働者を増やすなど、企業は従来と異なる政策を取り始めた。それが、格差社会の道へとつながる原因の1つとなる。

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