2015年3月号掲載

脱・成長神話

経済・経済学
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著者紹介

概要

副題は「歴史から見た日本経済のゆくえ」。経済史を専門とする著者が、歴史的な観点から「経済成長」を読み解き、日本にとって最善の経済社会は何かを展望した。私たちは、経済成長こそが様々な経済問題を解決する万能薬だと信じているが、それは神話にすぎない。本来、経済成長は“目的”ではなく“手段”だったと指摘、成長至上主義からの脱却を呼びかける。

要約

経済成長の意味を考える

 テレビや新聞で、「成長戦略」とされる「アベノミクス」が盛んに議論されている。この政策の人気は、「経済成長」を訴えることが政治的支持を獲得する手段として有効なことを示している。

 なぜ私たちは、経済成長に期待をかけるのか。その根底には、私たちが経済成長こそが様々な経済問題を解決する万能薬だと漠然と信じていることがある。だが、それが万能薬という根拠はない。それは「神話」とでも呼ぶべきものだ ―― 。

幸福の経済学

 経済学者は、経済発展は生活を豊かにし、そのことによって私たちは幸せを感じると主張する。しかし経済成長が、人々が本当に求める生き方とは違うものになる可能性は十分にあり得る。

 例えば『幸福の政治経済学』(ブルーノ・S・フライ他著)によれば、日本は、1958年から91年にかけて国民1人当たりのGDPは6倍に増加したが、生活満足度はほとんど変わっていない。

 これは日本ばかりの特徴ではなく、アメリカでも1人当たりのGDPは増えているのに、1955年頃から幸福度は低下傾向にある。

 このように、経済成長の成果と見られる物的な豊かさと満足度とには相関関係は見いだせない。そうだとすれば、いくらモノの生産を増やしても、人々がより幸せになるわけではない。

経済成長が幸福に貢献する境目の指標

 それでは、本当に経済成長は役に立たないのかといえば、それも簡単には否定できない。

 経済成長と幸福。この2つの相関関係について実証を試みた研究者たちがおおむね同意しているのは、実質平均所得が1万米ドルを下回る場合だ。こうした所得の低い国々では、平均所得の増加が生活の満足度の増加につながるようだ。

 このように、所得の増加が持つ効果に限界があることは、かねてから予測されていた。産業革命によって資本主義的な経済制度が国を豊かにすることを目撃し、その分析に力を尽くしたアダム・スミスやJ・S・ミルなどの経済学者たちは、時間が経てばいずれ所得の増大がほとんど意味をなさなくなるだろうと予測していた。

 スミスは「所得が増大してもほとんど意味をなさなくなる閾値がある」と主張し、ミルは「所得ではなく自由」が「最大の善」に至る最も確実な道と考えた。つまり、社会的な発展の経路は物的な豊かさから離れていくと考えられていたのだ。

 このように古典派経済学者は、経済成長が長期的に持続することには懐疑的だった。ところがいつの間にか、経済成長が経済学が目標とする望ましい経済状態であるかのように考えられるようになってきたのだ。

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