2026年9月号掲載
ふだんづかいの人類学 気づきと観察の力を磨く19の練習
Original Title :Exercices D’observation (2022年刊)
著者紹介
概要
観察とは、様々な文脈や環境の中で何かの存在に気づき、その状態を把握し、他のモノや人との関わりに目を向けること。この力を鍛えるエクササイズを人類学者が伝える。歩く、聞き耳を立てる、触る等々。ユニークな課題に取り組めば、世界の変化に自ら気づけるようになるという。スマホから顔を上げ、観察の旅へ踏み出そう!
要約
気づきと観察の練習
「あの人は目の付け所がいいな」「どうしてあんなに視点が鋭いんだろう?」
あなたの周りに、そんな風に感じる人はいないだろうか。同じ街を歩き、同じニュースを見ているはずなのに、独自の思考を紡ぎ出し、見えない法則をすくいあげる人がいる。彼らと私たちの違い、それは能力の差ではない。ただ、世界を観る解像度が違うだけなのだ。
かつてニュートンは、りんごが落ちるという「小さな気づき」から重力を発見した。あらゆる知や発明の原点には、身近な生活への観察から生まれた小さな気づきがある。
こうした気づきを得るための導き手となるのが、人類学的な観察眼である。人類学とは、未知の民族を調査するだけのものではない。フィールドワークのように対象へ「近距離」で密着し、時には異なる価値観や現象を「遠距離」で比較する。
そんな気づきと観察の力を育むためには、例えば次のようなことに取り組むとよい。
〈不〉完全に網羅する
どこでも好きな場所で10分間、自分を取り巻く環境を体系的に記録する。そこに存在するもの(動物、人、植物、モノ、乗り物、様々な標識など)や、周囲で起きていること(動き、何かが現れたり見えなくなったりするなど、あらゆる変化)を観察し、できる限り多く紙に書き出すのだ。
気づいたことは何でも記録してみる。視覚だけでなく聴覚も使い、静止しているものや動くもの、ありふれたものや目新しいものに等しく意識を向けよう。最後に、記録の中から少なくとも30項目を選び、好きな順序で並べたリストを作成する。
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フランスの作家ジョルジュ・ペレックは、パリのサン=シュルピス広場に3日間腰を据えて、次のような記録をした。
- ・バス…「87番はほぼ満員」
- ・乗客の詳細…「観光客はヘッドホンをしている」
- ・通行人、聞こえてきた会話…「3時15分だよ」
・生き物の存在…「鳩がやって来たが、昨日より少ないようだ」
ありふれた日常を体系的に観察するという課題に取り組む上で、ペレックの試みは参考になる。