2026年5月号掲載
危機の三十年 冷戦後秩序はなぜ崩壊したか
著者紹介
概要
1989年、米ソ2大国の首脳が「冷戦の終結」を宣言。人々は、世界が平和になると喜んだ。だが2022年、ロシアがウクライナを侵略、25年には米国が保護主義的な相互関税政策を実施。なぜ、平和と国際協調ではなく、国際秩序の破綻に向かうのか。ユートピア主義とリアリズム。この2つの視点から、「危機の30年」を検証する。
要約
ポスト冷戦時代の終わり
冷戦終結から30年。この間、国際政治は大きく変容した。そして、それまで自明視されていた国際秩序の安定を支える基盤は衰退していった。
2022年のロシアによるウクライナ侵略や、2025年のアメリカによる保護主義的な「相互関税」政策は戦後秩序の根幹を揺るがし、損ねた。
国際秩序は崩壊し始め、平和と国際協調に支えられていたこれまでの時代が黄昏を迎えている。
我々は大きな時代の変化の中にいる
安全保障専門家のフランソワ・エイスブールは、各国が自国防衛のために軍事力を増強している様相を見て、「これはポスト冷戦時代の終わりを物語っている」と論じている。どういうことか。
冷戦の終結は、世界に楽観主義的なユーフォリア(多幸的)の精神をもたらした。多くの人々は、核戦争の恐怖に怯えていた米ソ対立の時代の終わりに歓喜した。それは、それまでの冷戦時代のパワー・ポリティクス(権力政治)の時代、そして核戦争の危機の時代を忘却させるものであった。
ところが、そのようなユーフォリア的なポスト冷戦時代は終わったのかもしれない。
自由や民主主義といったリベラルな規範は後退し、権威主義が再び勢力を拡大し、軍事的な緊張や核戦争の恐怖、さらには大国間競争が「ニュー・ノーマル」となった。その意味で、我々は大きな時代の変化の中にいる。
国際秩序の危機
現在、我々が直面している危機の本質は、戦後国際秩序を形成する上で重要な役割を担ったアメリカ、ソ連、中国などの大国が、自らの手によって、その秩序の根幹を大きく崩していることだ。
また、アメリカはかつてのような責任のある大国としてリーダーシップを発揮し、同盟国から信頼を受けるような国家ではなくなりつつある。
現在、大国の膨張主義的な行動により、戦後国際秩序の根幹が大きく崩れ落ちている。だが、それに代わる新しい国際秩序の様相は見えてこない。
我々は混沌(カオス)の時代に入りつつある。