2026年5月号掲載
テクノロジカル・リパブリック 国家、軍事力、テクノロジーの未来
Original Title :THE TECHNOLOGICAL REPUBLIC (2025年刊)
- 著者
- 出版社
- 発行日2026年3月25日
- 定価3,300円
- ページ数356ページ
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著者紹介
概要
近年、米政府は科学技術への関心を失い、シリコンバレーは消費者商品に力を注ぐ。敵対国とのイノベーション格差は開く一方だ。テクノロジカル・リパブリック(科学技術立国)の再建。それに必要なのは、国とハイテク産業の緊密な協力、皆が当事者意識を持つこと。「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた著者たちが、そう説く。
要約
さまようシリコンバレー
欧米あるいは西側陣営は、最後の審判の時を迎えている。科学と技術の可能性に対して国家は野心も関心も失い、医療から軍事にいたる様々な分野で政府主導のイノベーションが衰退している。原子爆弾やインターネットを生み出したような大規模なブレークスルーの探求から手を引き、革新的な技術の開発を民間部門に委ねた。実に驚くべきことに、市場にほぼ全幅の信頼を置いたのだ。
だが、それを担うべきシリコンバレーは内向きになり、国民の安全や福祉に関わる大規模なプロジェクトに背を向け、オンライン広告やソーシャルメディアなど、消費者製品の開発に力を注ぐ。
ハイテク産業が消費者向け製品を作り続けることを、私たちは当たり前のように受け止めてきた。だが、この姿勢は果たして正しかったのか。
ソフトウェア産業の誕生
アメリカで20世紀初めにソフトウェア産業が誕生したのは、官民が手を組んだおかげだった。今では考えられないが、シリコンバレー黎明期の起業家は、しゃれた消費者製品より、産業や国家にとって重要な意味を持つ技術の開発に挑んだ。
例えば、フェアチャイルド・カメラ・アンド・インスツルメントは最初期のパーソナルコンピュータを開発した。これは1950年代後半に、中央情報局(CIA)が運用していたスパイ衛星の心臓部に使われた。1980~90年代には、ウエスチングハウスなど複数の企業が、シリコンバレーで数千人の従業員を抱え、兵器製造に従事していた。
かつて政治指導者と科学者は信頼の絆で結ばれており、科学者の助言や指導は重んじられていた。ソ連が1957年に世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げると、アイゼンハワー大統領は理論物理学者ハンス・ベーテをホワイトハウスに呼び、宇宙開発プログラムを刷新することを決めた。翌年には航空宇宙局(NASA)が設立されている。
アメリカの技術的卓越性
20世紀はアメリカの世紀で、主役は科学者と技術者だった。科学と工学を通じた公共の利益の追求は、国家理念の延長線上にあるとみなされた。
科学界は政府からの研究資金をはじめ広範な支援を必要とし、国家は科学技術への投資がもたらす進歩を必要とした。20世紀におけるアメリカの技術的卓越性、すなわち医療から国防にいたる幅広い分野で着実に成果を上げ進歩を誇示する能力こそが、この大国の信認を支えていたのである。
政府とソフトウェア業界の協力が不可欠
だが今日のシリコンバレーには、官民協力の伝統は影も形もない。テック企業はソーシャルメディアをはじめ、消費者市場ばかり見ている。
シリコンバレーの創業者世代は、美辞麗句で飾り立てた崇高な目的を掲げる一方、本心は隠している。そして巨額の資本を調達し、優秀な技術者を大量に呼び込むことに成功している。集めた貴重なリソースは、チャットなどのアプリ開発に使われている。20世紀前半に大規模に行われた官民共同の実験は、もはや見向きもされない。
シリコンバレーが内向きになり消費者ばかり見るようになると、政府も宇宙開発や軍用ソフトウェアなど多くの分野でイノベーションへの関与を縮小するようになった。官民の両方がこの変化を歓迎した。だが、政府とソフトウェア業界の協力こそ、アメリカと同盟国が今世紀に優位を維持するために必要である。