2026年3月号掲載

略奪される企業価値 「株主価値最大化」がイノベーションを衰退させる

Original Title :Predatory Value Extraction (2020年刊)

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著者紹介

概要

経営者や物言う株主は、企業から価値を“略奪”している ―― 。「株主価値最大化」の名の下、彼らは自社株買いで株価をつり上げ、莫大な利益を手にする。一方、株価の操作に大金が投じられた結果、労働者の雇用は不安定に。企業のイノベーションは進まず、生産性は低下した。この状況に、企業組織論の権威が警鐘を鳴らす。

要約

「株主価値最大化」のイデオロギー

 「株主価値最大化」。1980年代に登場したこのイデオロギーが、米国において、持続的繁栄の社会的基盤を弱体化させ、雇用の不安定、所得の不平等、生産性の伸び悩みを生じさせた。

「内部留保と再投資」

 第2次世界大戦後の数十年間、米国では賃金の伸び率が生産性の伸び率に追随できた。その主な理由は、大企業の「内部留保と再投資」の資源配分体制と「終身雇用」の慣行にあった。

 「内部留保と再投資」の体制の下では、人材と利益を社内に留保することで、競争力のある(高品質で低コストの)製品を生み出す生産能力への再投資を可能にしていた。

 「内部留保と再投資」の社会的基盤は、数十年にわたる安定的雇用、実質賃金の増加、そして長いキャリアの最後には確定給付型年金が提供される雇用関係であった。「内部留保と再投資」の体制は、終身雇用の規範と相まって、労働者が増加していく中流階級に加わることを可能にした。

「削減と分配」への移行

 だが、1970~80年代に「内部留保と再投資」から「削減と分配」への移行を正当化するためのイデオロギーが生まれた。これは、優れた経済パフォーマンスを達成するために、企業は株主価値最大化のために経営されるべきだと考えるものである。

 「削減と分配」の体制の下では、企業は労働力を削減し、それまで留保していた資金を配当や自社株買いの形で株主に分配する傾向がある。例えば、2008~17年の10年間で、S&P500種指数を構成する企業は4兆ドルの自社株買いを実施したが、これは純利益の53%に相当した。

 自社株買いに費やされた企業の資金は、企業の利益を生み出すのに貢献した幅広い従業員の雇用安定や所得向上に利用できたはずである。

 ところが実際には、自社株買いが株式の売り手の利益を増やすことで、賃金の伸びと生産性の伸びの差を広げ、米国の所得分配における最上位層に所得を集中させる一因となっている。

価値抽出のイデオロギー

 「株主価値最大化」の支持者は、こう主張する。

 企業が「フリー・キャッシュ・フロー」を配当や自社株買いの形で株主に「吐き出し」てこそ、経済資源が最も効率的な用途に配分される、と。

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