2026年2月号掲載
スロウ・ブランディング 記憶から価値をつくる これからのブランドの教科書
著者紹介
概要
ブランドとは何か。強固なそれを築くには何をすべきか。こうした問いにブランディングに30年以上携わるコンサルタントが答えた。捉えにくいブランドの本質を繙くとともに、時間をかけ正面から着実に取り組む「スロウ・ブランディング」こそ最も確実な道と説く。熱心なファンに永く愛されるためのヒントが詰まった教科書だ。
要約
ブランドという現象
マーケティング戦略において、半世紀ほど前から重要視されてきた「ブランディング」。今では企業の成長のカギを握ると言っても過言ではない。
しかし「ブランド」は急造はできない。例えばワインの生産者が「土づくり」に注力するように、面倒で、手間がかかる作業に取り組む必要がある。
効率が尊ばれる世界で、土づくりのようなブランディングをするのは怖いが、着実に取り組むほど、実は最もスピーディにブランドをつくれる。スロウに見えて、実は最も確実でファストな道。それが「スロウ・ブランディング」である。
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そもそも、ブランドとは何か。
実は、ブランドには世界的に共有された明確な定義は存在しない。専門家の間でもその解釈は揺れており、定義も様々である。では、なぜ定義できないのか。それは、ブランドは「物理的な存在」ではなく「心理的な現象」だからだ。
アマゾンにエルメスを持っていったとしたら
皮革製品等を扱う、エルメスというフランスの高級ブランドがある。中でも人気なのが「バーキン」というバッグ。希少なワニ革を使った最高峰の製品「ヒマラヤ」は正価で1000万円を超える。
さて、ここで一種の思考実験をしてみよう。
このバーキンのワニ革バッグを、アマゾンの奥地に住む先住民族にプレゼントしたら、彼らはどう思うか。私が想像するに「これはキャッサバ芋の入れ物にいいね」「川で獲れる魚を運ぶのにぴったりだ」。そんな反応が返ってくると思う。
ブランドとお金は同じ原理で成り立っている
この「アマゾンのエルメス」という思考実験が意味するのは、誰にとっても同じ価値を持つブランドは地球上に存在しない、ということである。
バーキンのヒマラヤは、何かを入れるモノとしては地球上どこに行こうが存在できる。だがブランドとしては、このバッグが大変な価値を持っていると信じる人の中でしか存在できない。これは、ブランドが、私たちの文化的な文脈の中において特定の意味が付与され、それを多くの人が共有した時にだけ姿を現すことを物語っている。