2025年12月号掲載
福音派 ――終末論に引き裂かれるアメリカ社会
- 著者
- 出版社
- 発行日2025年9月25日
- 定価1,320円
- ページ数308ページ
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著者紹介
概要
トランプ大統領の誕生・再選に関わるなど、近年、米国で影響力を増す“福音派”。「イエスの再臨が近いと信じ、自らを神の側に立つ“善”とみなすことで、道徳的退廃という“悪”に立ち向かう」。独特の終末論的世界観を持つ彼らの歩みを、本書は辿る。その軌跡から、同国で深まる亀裂の根源が見えてくる。
要約
アメリカ社会の対立を理解するカギ
現代のアメリカでは、中絶や人種、信仰など、複数の争点を巡り、深刻な対立が生じている。対立はなぜ起こるのだろうか。
その答えを探るカギは、宗教にある。
2022年の調査によれば、4割ものアメリカ人が世界は終わりつつあると信じている。特に人口の約25%を占める「福音派」では、6割を超える。
彼らにとって現代の対立は、終末に向かう世界における善と悪の戦いの一部と理解されている。
福音派とは
「福音派」という名称は、救い主イエスの到来を意味するギリシア語の「良い知らせ」、すなわち「福音」に由来する。
この用語は、16世紀の宗教改革以降、ローマ・カトリックと区別されるプロテスタント教徒を表す一般的な呼称として使われてきた。しかし本書で扱う福音派は、アメリカの歴史の中で独自の発展を遂げた特殊な宗教集団を指す。
米国の福音派は、神の言葉としての聖書、救いの条件としてのキリストへの信仰、布教を重視する、宗派の壁を超えた宗教集団であり、運動だ。
福音派が台頭した背景には、1960年代以降の一連の社会変化がある。公教育の世俗化、公民権運動やフェミニズムが掲げた自由と平等の理念は、米国の白人プロテスタント社会を中心に根付いていた伝統的な価値観を根底から揺るがした。
これに危機感を抱いた福音派は、「古き良き」アメリカ文化を守るため、政治に参画していった。
この動きを支えたのが、冒頭で述べた独特の終末論的な世界観である。終末論とは、世界の終わりに関する宗教的な考えである。キリスト教では、イエスの復活と再臨による最後の審判を指す。
とりわけアメリカの福音派は再臨が近いと信じ、自らを神の側に立つ善の力とみなすことで、世俗化や道徳的退廃という悪に立ち向かう。彼らにとって終末に向かう世界での戦いとは、社会の具体的な問題との対峙であると同時に、その背後にある超自然的な悪との霊的な戦いでもあるのだ。