2025年11月号掲載
新規事業撤退力を高める
著者紹介
概要
今までやってきたことが無駄になる、現場に申し訳ない、批判されたくない…。経営者が新規事業を断念するのは難しい。だが、適切に退き、学びを得れば、それは次の取り組みの糧となる。この“幕引きを図る”力のつけ方を説いた書。多くの企業の新規事業構築を支援してきた著者が、将来につながる「良い撤退」を語る。
要約
なぜ撤退は難しいのか
長期的、また連鎖的に新規事業を成功させるためには3つの能力が必要だ。
1つは、新規事業を始める力=新規事業着工力である。新規事業を始めなければ結果は出ない。
2つ目は、新規事業遂行力である。新規事業の成功に向けた道のりは山あり谷ありであり、幾多の壁を打ち破り、やり遂げる力が重要だ。
そして3つ目が、新規事業撤退力、すなわち撤退が必要な局面で、うまく幕引きを図る力だ。
新規事業は難しい。どんなに周到に準備をして頑張っても、うまくいかないことが多い。そうなると、ある時点で撤退を考える必要がある。
しかし実際は撤退に踏み切ることは難しく、適切なタイミングを逃し、傷口を広げる場合が多い。
それは、次のようなハードルが、撤退の決断を難しくさせているからだ。
注ぎ込んだリソースを惜しみ、躊躇する
着工の決断以降、新規事業には相当量のリソース、エネルギー、時間が投入される。
そのため撤退は、今まで投入したものを無駄にすることのように感じられる。すると「もったいなさ」から、本当にここでやめてよいのか、などと考えがちになり、やめる決断を躊躇してしまう。
現場の気持ちを考えてしまう「同情的感情」
日本企業の場合、現場の努力に寄せる感情から来るハードルも大きい。具体的には、「こんなに現場が頑張っているのであれば、ここで幕引きとするのは忍びない」という同情的感情である。
情に流されるのはどうかと批判するのはたやすいが、果敢に努力しているチームのことを思うと、冷徹に「ここまで」と言い渡すのは簡単ではない。