2025年9月号掲載
THIRD MILLENNIUM THINKING アメリカ最高峰大学の人気講義 1000年古びない思考が身につく
Original Title :THIRD MILLENNIUM THINKING:Creating Sense in a World of Nonsense (2024年刊)
著者紹介
概要
哲学者、社会心理学者、そしてノーベル賞受賞物理学者。米国の名門大学で教鞭を執る3名が、人類が長い歴史の中で編み出した「科学的思考」を伝授する。不確実な状況を巧みに切り抜ける「蓋然的思考」、長期プロジェクトの推進に役立つ「科学的楽観主義」…。情報が溢れる現代を、賢く生き抜くための知恵が詰まった1冊だ。
要約
「不確実性」を理解する
科学は何千年にもわたって、難問の解決やよりよい生活の実現に貢献してきた。そして科学者たちはその間ずっと、成功と失敗の両方から学び、新たな問題を解決するツールに磨きをかけ続けた。
そのツールは、測定器具、コンピューターなどの物理的な道具にとどまらない。思考習慣、手順、心構えといった思考にまつわるツールも含まれる。
こういう思考ツールを使うと作業効率が向上し、成功する確率が高まり、信頼性の高い結果を生み出せる。よって、科学以外の分野でも使うべきだ。
蓋然的思考の凄い力
現実について知っていることに基づいて決断を下さないといけない時、自分が持つ知識はすべて事実であるとの思いに固執してはいけない。
そうではなく、これについては強く信頼し、あれについては多少の疑いを残すというようにして、新たな事実が判明するたびに信頼の比重を変える。そうすれば、必要に応じ決断の内容を更新できる。
そのように考えることを「蓋然的思考」と呼ぶ。これは重要な科学の要領の1つで、理解が不確かな状態をうまく切り抜ける柔軟性がもたらされる。
例として、ある物理学教授のエピソードを紹介しよう。その教授は、磁気に相当する荷電粒子、いわゆる磁気単極子と思われる物質を発見した。それが本当に磁気単極子なら、世紀の大発見だ。
その科学者は自らの発見を公表した。その発表の仕方はまさに、蓋然的なものだった。彼は何を観測したかを提示し、発見された粒子が磁気単極子ではない可能性を示唆する懸念事項を提示し、粒子の正体が見込み通りである確率を提示したうえで、「判明した事実は、この粒子が磁気単極子であると強く示唆するものである」と結論づけた。
しかし、その後の調査を通じて、その粒子は磁気単極子とは似ても似つかないものだとわかった。
だからといって、その教授の科学者としての評判が傷つくことはなかった。それは、彼が科学的かつ蓋然的に結論を提示したからに他ならない。
蓋然的な言い回しを使うと、互いの間違いの指摘に終始しない有意義な会話が促される。それに、自分の認識が違っていたと判明することを警戒して、そういう事態に進んで備えるようにもなる。