2025年2月号掲載
イノベーションの科学
- 著者
- 出版社
- 発行日2024年11月25日
- 定価1,012円
- ページ数247ページ
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著者紹介
概要
「創造的破壊」ともいわれるイノベーション。それは経済成長や新産業の創出など、社会に恩恵をもたらす。その一方、既存のスキルを陳腐化させ、失業する人も。どんなスキル、人が破壊されやすいのか? 破壊の打撃を和らげる方策とは? 産業革命などの歴史的事例も織り交ぜながら、イノベーションとの向き合い方を考える。
要約
イノベーションとは何か
1816年11月21日、イギリス・ノッティンガムのジェームズ・トウルの葬儀に3000人を超える人が参列した。関係者以外の人の参列は禁じられていたにもかかわらずである。
トウルは、36歳の編み物職人だった。葬儀への参列が禁じられていたのは、彼が機械の打ち壊し運動のリーダーだったからだ。彼は有罪判決を受け、前日に死刑となっていたのである。
当時のイギリスは産業革命が進展し、綿手織りなどの機械化が進んでいた。仕事が奪われることを恐れた熟練工たちは、集団で工場の機械を破壊する運動を起こした。ラッダイト運動と呼ばれるものだ。トウルの葬儀に多くの人が参列したのは、自分たちの生活が壊される不安と、それに立ち向かった彼への共感があったからだろう。
一方で、機械を打ち壊された側の人々もいる。当時のイギリスは人件費が高騰していた。それゆえ機械の創造は、省人化して工場の競争力を向上させ、自分の暮らしを変える希望だったのである。
最終的に打ち壊し運動は政府に鎮圧され、工場の機械化が進んだ。この創造的破壊によって、イギリスは世界の工場になったのである。
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このエピソードは、イノベーションの性質をよく表している。すなわち、イノベーションには必ず、創造と破壊の2つの側面がある。そして、創造する人と破壊される人は、それぞれ別なのだ。
恩恵は社会に少しずつ広がる
イノベーションとは、経済的な価値を生む新しいモノゴトを指す。創造的破壊ともいわれ、古いモノゴトを新しいモノゴトが創造的に破壊する。
この創造と破壊の影響は、時間差で出てくる。
イノベーションの大きな恩恵は、生産性の向上による経済成長や、新しい産業や雇用の創出、生活の質の向上などである。ただ、その恩恵が全体に広がるまでには時間がかかる。なぜか。
1つの理由は、補完的な制度の整備が遅れることだ。例えば、クルマは開発されてからすぐ大きな経済的な価値を生み出したわけではない。交通ルールの整備や高速道路が必要である。メインテナンスのためのエンジニアも要る。こうした制度やサービスが整備されるには、時間がかかるのだ。