2025年2月号掲載
資本主義再興 危機の解決策と新しいかたち
Original Title :CAPITALISM AND CRISES:HOW TO FIX THEM,FIRST EDITION (2024年刊)
著者紹介
概要
世界は今、異常気象や社会の分断など、数々の問題を抱えている。その根源は、利益のためなら、他者や環境、社会を顧みない「資本主義」システムだ。これを、いかに修正すればよいか、世界的経済学者が答えを出した。ビジネスの「目的(パーパス)」「道徳律」「利益」といった観点から、資本主義の望ましいあり方を明らかにする。
要約
問題
今、世界は様々な危機に瀕している。干ばつ、洪水、エネルギー危機、食糧危機…。
危機は頻度と激しさを増しており、根幹の問題が解決されるまで間違いなくそれは続く。その問題とは、資本主義システムだ ―― 。
インテグリティ
2015年9月、独フォルクスワーゲン(VW)のマルティン・ヴィンターコルンCEOは、米国の排ガス試験で不正を働き、汚染物質の排出量が少なくなるよう見せかけていたことを公に認めた。
この事件で特に問題となったのは、「無効化装置」と呼ばれる仕組みを使っていた点だ。この装置は道路走行時と排ガス試験時とで、クルマが異なる動きをするよう作動する。
環境を守るための排ガス試験を回避するため、クルマに無効化装置を搭載したことは、顧客や社会、自然界の健康やウェルビーイングを守るための手続きを逃れることであり、誠実さ(インテグリティ)が欠如しているといえる。
利益
現代において「利益」は、個人的利益や金銭的利得の概念となっている。何か経済活動をする際、かかった費用を上回る部分が利益だ。
ただし、利益は金銭的な報酬とは限らない。欲望や嫉妬から生まれることもある。美徳や犠牲、善行や悪行からも生まれるかもしれない。
つまり、単に利益を上げながら問題を解決するだけでなく、その目的を深く考える必要がある。そのためには、利益とは何かを明確にし、目的が確実に他者の利益になるよう、利益の範囲を制限しなければならない。
他者に問題を生じさせて得たものは利益ではない。無効化装置を車両に搭載することで得たVWの利益は、本当の意味での利益ではない。
世界中の企業、経済、社会、国家における失敗の歴史の根底には、利益に対する誤解と誤った測定方法がある。私たちは、利益でないものを利益として誤って計上してきた。