2016年6月号掲載

地政学リスク 歴史をつくり相場と経済を攪乱する震源の正体

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著者紹介

概要

クルド人問題、キリスト教とイスラム教の対立、地球温暖化…。こうした地政学上の出来事は、世界経済にどんな影響を及ぼすのか? 多様化する地政学リスクを「宗教対立、民族意識、イデオロギー闘争、民主化運動、環境破壊」の5つに類型化して解説する。グローバルな経済を見る目を養える、世界鳥瞰図といえる書だ。

要約

地政学リスクの類型化

 資本市場や市場経済の分野で「地政学」という言葉が使われ始めたのは、21世紀に入ってからのことである。

 きっかけは、2001年9月11日に米国で起こった同時多発テロ事件だ。この事件は、為替市場から株式市場、商品市場に至るまで激しい変動を引き起こし、世界経済も減速に向かった。

 市場や経済を攪乱する可能性のある今日の地政学リスクは、地域的に拡大しているばかりか、性質的にも多様化し、正確に理解するのが難しい。

 そこで本書では、今日の地政学リスクを5つに類型化してみる。それによって、現代の経済社会にいかに多くのタイプの地政学的な課題が入り混じっているのかが浮き彫りになるだろう。

①宗教対立に潜む経済問題:資本主義の爪痕

 地政学の歴史的経緯を古代まで遡っていけば、宗教的な対立の構図に突き当たる。それはまず、キリスト教の分裂から始まっている。

 395年にローマ帝国が東西に分裂すると、宗教界も西はローマ、東はコンスタンティノープル(現在のイスタンブール)をそれぞれ総本山とする勢力に分裂していく。さらに中世に入ると、西側ではカトリックとプロテスタントに分裂し、東側ではコンスタンティノープルがイスラム勢力の支配下に入り、ギリシャ正教と呼ばれた東側のキリスト教の主軸がロシアへと変遷する。

 そして、キリスト教社会では徐々に経済格差が生じ、それが新たな対立のタネを撒くことになる。

 具体的には、ユーロ圏における南北格差の問題だ。2012年以降明確になったイタリアなど南欧諸国の債務問題は、カトリック社会の経済停滞を象徴している。ドイツなどプロテスタント社会が比較的豊かな経済を維持しているという宗教的な解説は、経済学的な議論の場ではあまり語られないが、現実問題として無視できない指摘である。

 キリスト教社会の西欧には資本主義が根付いて生活水準が向上する一方で、イスラム教の社会では市場経済がなかなか定着せず、工業化や産業化の過程で大きく後れを取っている。

 イスラム諸国では、就業機会を求めてキリスト教社会である西欧諸国に移民するケースが増えている。だが、そこでの差別待遇や貧富の差が不平や不満となってテロのような事件に発展するのが、現代経済社会における病的な特徴である。

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