2004年7月号掲載

予防戦争という論理 アメリカはなぜテロとの戦いで苦戦するのか

Original Title :FEAR'S EMPIRE:War, Terrorism, and Democracy

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著者紹介

概要

テロリストの殲滅という当初の目的を、いつの間にか対イラク戦争へとすりかえてしまったブッシュ政権の論理と行動には、世界の多くの人々が危惧を抱いている。本書では、なぜそのような「すりかえ」が起きるのかを考察、そして真にテロを予防するためにアメリカがとるべき道を提示する。様々な意味で「アメリカの良識」の有り様を知ることのできる1冊。

要約

「予防戦争」ではテロは防げない

 イラク戦争は、2002年9月にアメリカ政府が「アメリカ合衆国の国家安全保障戦略」として発表した戦略理論から生まれた。

 この理論は9・11テロ直後に考案され、その後、ブッシュ大統領の数々の演説によって輪郭が描かれていった。

 この公式文書の中で、大統領は次のように結論づけている ── 「過去の敵は、大規模な軍隊と工業力がなければアメリカを危険にさらすことはできなかった。しかし、今や個人の集団による陰のネットワークが、戦車1台を購入する費用にも満たない資金で、わが国に多大な混乱と被害を及ぼすことができる」。

 こうした新しい現実に対処するためには、戦略の根本的な転換が必要で、「新しい脅威が完全な形をとる前に対処」しなければならない。「敵対行為を未然に防ぐため、必要があれば先制行動をとる」、つまり、アメリカは「予防戦争」を行うことを正式に示したのだ。

 これによって、かつて世界中から最も称賛された民主主義を象徴していた国は、どこでも戦争を引き起こす「恐怖の帝国」へと豹変した。

 だが果たして、アフガニスタンとイラクは、予防戦争による世界戦略の成功例になるのか?

 テロリストが“恐怖”の効力を思い知らせた9・11は、一方で軍事力の限界をも明らかにした。アメリカの誇る軍事力をもってしても、ペンタゴンにある司令部やマンハッタンにある資本主義の象徴を守ることができなかったのだ。

 姿を隠したまま自在に移動できるテロリストは、軍事力の影響をほとんど受けない。たとえ国家全体を打ちのめしても、テロリストは生き残り、指導者も次々に現れる。そして、彼らは恐怖が自分たちにとって第1の武器だと知っている。

 再び攻撃されるかもしれないという一種の免疫反応によって、大きな損害をアメリカは自ら被ったのである。また、政府は、どこが標的になるかはわからないが攻撃の恐れがあるという警告を律義に発することで、どんなテロリストよりも恐怖を撒き散らしているともいえる。

 ものの名称も恐怖の原因となり得る。

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