2026年10月号掲載

分断と反知性主義のアメリカ 知性の敗北と再建の政治経済学

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著者紹介

概要

今、アメリカでは民主主義の基盤が揺らいでいる。イデオロギーや経済格差の拡大などにより、社会の「分断」が深まっている。そして、専門家を信用せず、彼らが公共的な意思決定に関わることを疑問視する「反知性主義」が広がっている。なぜ、こうしたことが起きたのか。歴史を繙きつつ、その背後にあるロジックを明らかにする。

要約

アメリカの分断

 アメリカは深い分断の中にある。それは一時的な政治的対立ではない。民主主義の作動基盤そのものが揺らぐ事態である。

 この状況を象徴する出来事が、2025年1月に発足した第2次トランプ政権である。しかし重要なのは、この政権が誕生したという事実そのものではない。それが国民的な「合意」や「連帯」の中で成立した政権ではなかったという点である。この政権は分断を収束させる政権というより、「どちらの側に立つのか」という踏み絵を有権者に突きつける政治の上に成立した。

他党は「自分の価値観を脅かす存在」

 もっとも、アメリカ政治が激しい対立とともにあるのは初めてのことではない。

我々は同じ原則を奉じる兄弟であるのに、ただ名を異にしているにすぎない。我々はみな共和党員であり、みな連邦党員である。

 1801年、激しい選挙戦の末に第3代大統領に就任したトーマス・ジェファーソンは、就任演説でこう呼びかけた。対立の存在を認めながらも、それでもなお共和国の統一を再確認する ―― それがアメリカ政治の古典的な作法であった。

 しかし今日、この作法はかつてほど自明ではない。近年の世論調査では、自分を「代表してくれている」と感じる政党がないと答える有権者が4分の1に達し、共和党支持者と民主党支持者が互いを「自分の価値観を脅かす存在」とみなす度合いを強めている。

分断のメカニズム

 アメリカの分断が深まった背景には、3つの構造的変化があるとされている。

  1. ①政党とイデオロギーの関係が「整理されて」しまったこと。かつて民主党と共和党の党内には、リベラルと保守が混在していたが、両党がはっきりと異なる立場を取るようになった。
  2. ②経済格差の拡大。格差が広がると、左派の内部では再分配を重視する声が強まり、右派の内部ではそれに対する反発が強まった。
  3. ③政治資金の自由化や利益団体の台頭を通じ、妥協より対決を好む活動家や資金提供者の影響力が高まった。

 例えば1つ目の変化を見ると、アメリカ政治は、かつては所得が主たる対立軸であり、富裕層が共和党、低所得層が民主党を支持するという構図が安定していた。ところが1990年代以降、宗教、ジェンダー、移民といった文化的争点が焦点となると、政党支持は次第に文化的イデオロギーに沿って再編されるようになる。

 例えば、福祉カットが自らの生活を圧迫するとしても、伝統的価値の擁護を掲げる政党を選ぶことが合理的に感じられるようになる。こうして対立軸は「文化戦争」へと傾き、分断はアイデンティティをめぐる対立へと深化していく。

 ここで重要なのは、分断が単なる意見の違いではないことだ。分断が深まる社会では、相手を「説得すべき競争相手」というより、「自分たちの価値や生活様式を脅かす存在」として捉える。

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