2026年8月号掲載
MATERIAL WORLD(マテリアル ワールド) 世界は「資源」で動かされる
Original Title :MATERIAL WORLD:A SUBSTANTIAL STORY OF OUR PAST AND FUTURE (2023年刊)
著者紹介
概要
半導体の原料となる「砂」、衛生や医療を支える「塩」、ものづくりに欠かせない「鉄」、そして野菜やプラスチックの源となる「石油」…。こうした資源を巡り、人類は過去幾度となく争いを繰り返してきた。本書は、経済や地政学が複雑に絡む資源の歴史や活用の実態を描き出し、現代の“複雑怪奇”な資源問題を浮き彫りにする。
要約
砂 ―― 半導体の物語
私たちの住む世界は、次第に「非物質化」している。アプリやオンラインサービスなど、無形のアイテムに大きな価値が置かれている。
だが、それにもかかわらず、それ以外のすべてのものを支え続けているのは「物質世界」だ。SNSから小売業、金融サービスに至るまで、ほとんどすべての産業が、物理的なインフラや電力を供給するエネルギーに完全に依存している。コンクリート、銅、光ファイバーがなければ、データセンターもインターネットもなかっただろう。
中でも、砂、塩、鉄、銅、石油、リチウムという6種類の物質は、人類にとって必要不可欠な素材である。そしてこの6種類の物質には、理想的な代替物がほぼ存在しないのである ―― 。
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シリコンチップに変わる“砂”
砂は、物質世界の大きな謎である。地球は砂でできているのに、私たちは深刻な砂不足についての話を頻繁に耳にする。例えば、世界の片隅ではシリコン(ケイ素)の粒の支配を巡り、「砂マフィア」が殺し合いをしている。違法な集団が闇に紛れて砂浜や川底を掘り起し、砂を密輸して闇市場で売買している。
砂には様々な種類が存在し、それぞれが独自の性質を持つ。ただし、その多くにはシリカが含まれている。シリカは二酸化ケイ素やクオーツ(石英)の名でも知られ、ガラスの主要成分でもある。
砂の中のシリカの含有量は、最終的にその砂の用途を決めるため重要である。大半の砂はシリカの含有量は少ないが、中には砂漠の砂のように、シリカを豊富に含む種類がある。
人間はそうした砂をビーズや宝飾品に変化させた。そしてその同じ物質を、21世紀のスマートフォンやハイテク兵器の製造にも活用している。砂をシリコンチップに変えるプロセスは、エンジニアリングが生み出した最も驚くべき偉業だ。
砂を半導体に変える途方もない旅
シリコンを数ミリ角の集積回路素子であるシリコンチップへとつくり変えるまでには、途方もなく長いサプライチェーンが存在する。例えばスペイン・ガリシア州の鉱山で取り出された石英は数カ月~数年かけてシリコンチップになる。
この鉱山は、中国を除いて、世界最大の金属シリコン製造企業であるスペインのフェログローブが所有している。地面から掘り出された石英石は洗浄され、大型トラックで港近くの工業団地に運ばれる。そして石炭と木くずと一緒に混ぜられ、炉に入れられて1800度以上で加熱される。
石英、石炭、木くずを混ぜた原料6トン分の溶融物から、1トンの金属シリコンが姿を現す。金属となったシリコンは、炉から取り出し固められた後、砕かれて一種の粒状金属になる。この段階でシリコンの純度は約98~99%だが、シリコンチップをつくるのに必要な純度には程遠い。