2026年2月号掲載
ドル覇権が終わるとき ――インサイダーが見た国際金融「激動の70年」
Original Title :Our Dollar,Your Problem:An Insider’s View of Seven Turbulent Decades of Global Finance, and the Road Ahead
著者紹介
概要
ドルの時代は、今後10年以内に終わる!? 世界の基軸通貨として、国際貿易や金融市場で使用されるドル。だが、その地位に陰りが見えている。増え続ける米国の赤字、たやすく政治に屈する米中央銀行…。各種要因を挙げ、ドル覇権が終わりつつあることを示す。著者は元IMF(国際通貨基金)チーフエコノミストの金融経済学者。
要約
“パックス・ダラー”の時代
世界は“パックス・ダラー(ドルによる平和)”の時代を享受している ―― 。
アメリカの政策当局と独善的な経済学者たちは、そう信じ込んでいる。ドルこそが信頼できる通貨で、未来永劫安定と成長をもたらすというのだ。
基軸通貨としてのドル
今日の国際貿易や金融市場で、ドルが共通の通貨として流通していることに異論の余地はない。
金融業界誌では、次の基軸通貨になるのは自国通貨だと大言壮語する外国首脳や、ドルを駆逐する通貨を発明したと称するイノベーターが盛んに取り上げられる。だが、実際にはドルは、これまでにどんな通貨も成し遂げられなかったような形でグローバル金融システムを支配している。
今日、世界には150以上の通貨が存在するが、実際には国際取引の90%でドルが使われている。150種類ある通貨の大半は為替市場に厚みがないため、ドルを「媒介通貨」として使う方が安上がりだからだ。例えば、カナダドルを米ドルに換えてから豪ドルに換える方が、カナダドルと豪ドルを直接スワップするより取引コストは安くなる。
ドルはまた、国際取引される財や金融資産の価値を表すうえでも重要な役割を果たしている。例えば、世界の原油は現在でも80%前後がドル建てで取引される。中国が人民元建てを躍起になって推進しているが、今のところは原油以外の商品取引でもドル建てが圧倒的に多い。
規模の優位性と開かれた市場
アメリカ経済が世界最大の規模を誇ることは、ドルにとって有利に働く。この規模の優位性は次第に揺らぎつつあるものの、そのペースは緩慢だ。
1950年から2025年にかけて、アメリカが世界のGDP合計に占める比率は、市場為替レートでみて約25%まで低下した。この間、2回の大幅低下があった。1回目はヨーロッパと日本の経済が第二次世界大戦からの再建を果たした1980年前後、2回目は中国が高度成長を遂げた2000年代前半だ。
2000年における欧州連合(EU)の経済規模はアメリカ経済とほぼ同じで、対等の関係が実現する日は近いとみられていた。だが今日では主に技術面の立ち遅れからアメリカの後塵を拝している。また、中国の台頭はめざましいが、それでも中国経済の規模はアメリカの3分の2にとどまる。
もっとも、規模は重要だがすべてではない。重要なのは、アメリカが他のどの経済大国よりも開かれた市場であることだ。現時点では、アメリカの金融市場は外国人投資家に開かれている。何よりアメリカでは法の支配が確立されており、大半の国より債権者が保護されている点が大きい。
以上のように、アメリカ市場の規模と厚みは他の国を今なお凌駕する。