2025年12月号掲載
水の戦争
- 著者
- 出版社
- 発行日2025年9月20日
- 定価990円
- ページ数187ページ
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著者紹介
概要
今、「水」は、政治や経済を根底から揺さぶるリスク要因となりつつある。成長著しいAIや半導体の製造現場では膨大な水を消費。台湾の半導体大手は、水を求めて日本に進出した。一方で、極端な降水や乾燥が頻発する中、世界各地で水を巡る争いが激化している…。深刻化する「水の戦争」について、水ジャーナリストが報告する。
要約
テクノロジー企業が水を飲み干す
人間の水使用量は、20世紀を通じて大きく増加した。1930年代半ばに年間約1000k㎥だった世界の水使用量は、2000年には約4000k㎥に達した。水が足りない場所や時期は今後増えると予測され、2050年には、世界人口の40%以上が深刻な水ストレスに直面すると見込まれている。
データセンターにおける水の消費量
近年、新たな水の使用者として注目を集めているのが、テクノロジー産業である。この産業は、見えにくいところで大量の水を必要とする。
特に注目されているのが、データセンターにおける水の使用だ。
例えば、マイクロソフトの2025年版レポートによると、同社の水消費量(取水量-排水量)は2020年に419万㎥だったが、2023年には784万㎥と、わずか3年で87%増加した。この量は、小規模なダムの貯水量に匹敵する。
こうした数字を見て、直ちに危機を感じる必要はないと思うかもしれない。しかし、テクノロジー産業は今後急速に成長すると予測されており、水使用量も比例して増えていく可能性がある。
AIが喉を渇かせる
では、テクノロジー産業の中でも成長著しいAI分野では、どれだけの水が使われているのか。
米カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームは、「ChatGPTのような大規模言語モデルを米国の最新鋭データセンターでトレーニングした場合、約2週間の学習期間中に約70万Lの淡水が消費される」と試算している。
例えば、グーグルのデータセンターの敷地は10万㎡を超えることもあり、そこに設置されている無数のラック(サーバー等を収める棚)は、1台あたり10~20kWの電力を消費する。
これほど電力を使えば、発熱量も大きくなり、ラック内の温度を安定させるには冷却が不可欠だ。かつては空気を用いた「空冷式」が主流だったが、現在はデータセンターの高密度化に伴い、冷却水を用いた「水冷式」への移行が進む。水冷式では、冷却水を循環させ、蒸発させることによって熱を外部に放出する。この時蒸発した水は再利用できないため、「消費」としてカウントされる。
研究チームの試算によれば、生成AIとの20~50のやりとりで、500mLの水が必要とされている。2024年5月時点で、ChatGPTの月間訪問者数は23億人にのぼった。仮にこれらの人々が1日20~50のやりとりを行うと、理論上、月間で115万㎥の水が消費される。
これは東京ドーム1杯分に近い量だ。AIが世界中から寄せられる膨大な質問に応えるたびに、現実世界では水がひそかに失われているのである。