2025年9月号掲載

テクノ専制とコモンへの道 民主主義の未来をひらく多元技術PLURALITY(プルラリティ)とは?

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著者紹介

概要

台湾の元デジタル大臣、オードリー・タンらが提唱する「デジタル民主主義」がもたらす未来を紹介。カギとなるのは、複数性や協働、デジタルなどを意味する「多元性(Plurality:プルラリティ)」だ。テクノロジーに支配されるのではなく、これを活用する。そうすれば、1人1人が自由に協働し自分の考えを存分に表明できる社会になるという。

要約

第三の道

 台湾の元デジタル大臣オードリー・タンと、Microsoft主席研究員で経済学者のグレン・ワイル。彼女たちは、1人1人が自由に協働する民主主義社会こそが私たちの未来であると主張する。その構想は2022年頃に始まった共同執筆による書籍プロジェクトPlurality(プルラリティ)にまとめられている。

 多様な人々が自由に協働しつつ運営されるこのプロジェクトを参照しつつ、テクノロジーと民主主義の持つポテンシャルについて、以下検討する。

21世紀のイデオロギー

 今、私たちには次の2つのイデオロギーの選択肢がある、という考えが支配的である。

・統合テクノクラシー

 AIとその専門家によって人々を統治するために、社会がテクノロジーに適応すべきだと考える。このイデオロギーの提唱者たちは、AIがあらゆる物質を安価で豊富にすることを期待する。だが、その豊かさは均等に分配されるとは限らず、AIシステムの支配者に集中することが予想される。

・企業リバタリアニズム

 暗号技術などによって規制から解放された個人が自己利益を追求することを何よりも重視する。このイデオロギーの唱道者カーティス・ヤーヴィンは民主主義を不合理だと否定し、国家は有能な君主=企業主が合理的に経営すべきだと主張する。

デジタル民主主義

 だが、テクノロジーと民主主義の対立は避けられないものではない。ノーベル経済学賞受賞者のダロン・アセモグルらは、テクノロジーの進歩の方向性は社会の選択に左右されると主張する。

 そして、彼らが「よりよいオンライン・コミュニティを育む民主的制度につながる道」として注目するのが、オードリーが主導する「デジタル民主主義」構想である。これが、統合テクノクラシーと企業リバタリアニズムに代わる第三の道だ。

 デジタル民主主義のキーワードは「多元性(Plurality)」だ。このPluralityには複数性、協働、ネットワークといった意味だけでなく、デジタル・テクノロジーの介在が示唆されている。Pluralityに込められた意味は、多様性を大事にするといった程度のものではない。というのも、そもそも社会や宇宙のあり方自体が多元的だからだ。

統合テクノクラートと企業リバタリアンの宇宙観

 統合テクノクラートと企業リバタリアンは、この還元論的宇宙観を前提とし、個人=原子と見る。だが、デジタル民主主義は宇宙観自体が違う。

複雑系科学からのインスピレーション

 デジタル民主主義の着想は、複雑系の科学からインスピレーションを受けている。

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