2025年6月号掲載
身近な薬物のはなし ――タバコ・カフェイン・酒・くすり
著者紹介
概要
酒、コーヒー、タバコ。多くの人が口にするこれらの嗜好品、実はいずれも“薬物”だ。依存性があり、健康に悪影響を及ぼす。しかも、厳しい規制は免れている。では、これらの薬物は、人間の生活とどう関わってきたのか? 依存症研究の第一人者が、歴史を辿りつつ、身近にある薬物の有害性、付き合い方を解説する。
要約
アルコール
俳優やミュージシャンなど、社会で活躍する人々が違法薬物で逮捕されるたびに、ニュースはその話題で持ちきりとなる。そうした報道に接するにつけ、日本における喫緊の薬物問題は大麻や覚醒剤であるような印象を抱く方も多いだろう。
しかし、その印象は正しいのだろうか?
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依存症史研究の第一人者デイヴィッド・T・コートライトは、人類に最も大きな健康被害をもたらしている薬物として、アルコール、タバコ、カフェインの3つを挙げ、これに「ビッグスリー」という名称を与えた。一方、ビッグスリーほど深刻な問題をもたらしていないにもかかわらず、厳しい規制の対象とされてきた薬物として、アヘン(オピオイド類)、大麻、コカインの3つを挙げ、これらを「リトルスリー」と名づけている。
要するに、社会はビッグスリーが引き起こす健康被害を忘れながら、さもリトルスリーこそが最重要課題であるかのように喧伝してきたのである。
ストロング系チューハイへの警鐘
例えば、アルコール。
私はこれまで、診察室でたくさんのストロング系チューハイ愛飲患者に出会ってきた。彼らは、「シュワシュワしてて飲みやすい」と勢いよく、2缶、3缶と飲み干し、酩酊し、我を失うのだ。
ストロング系チューハイとは、一般にアルコール度数7~9%の発泡性アルコール飲料を指す。元々は一商品の名称だったが、それが大定番商品となり、他メーカーも追随する商品を発売し始めるに及んで、類似商品全般を指すようになった。
ストロング系の厄介さは、比較的アルコール度数が高いことに加えて、あたかも清涼飲料を飲むようなペースで喉に流し込むといった飲み方をされやすい点にある。
9%のストロング系500mL缶1本に含まれる純アルコールは36g。一般に、1日あたりの摂取純アルコール量60g以上の人は、「多量飲酒者」に該当し、内科疾患や依存症のハイリスク者とされる。ストロング系を1日あたり1L飲む人は、余裕で多量飲酒者の仲間入りというわけだ。
アルコールによる健康被害
ここで強調しておきたいのは、アルコールはある意味で非常に有害な薬物である、ということだ。