2022年3月号掲載
PERIL(ペリル)危機
Original Title :PERIL
著者紹介
概要
2021年1月、米国で議会襲撃事件が勃発し、国中が騒然となった。トランプからバイデンへの政権移行で生じたこの混乱を読み解くカギは、衝動的で予測不能なトランプの言動にある。200人以上の関係者へのインタビューや膨大な資料から、トランプ政権末期のホワイトハウスや、新大統領バイデンの苦悩などを描いた話題の書。
要約
「連邦議会議事堂」襲撃事件
2021年1月6日。この日、ドナルド・トランプ大統領の支持者たちが、アメリカ連邦議会議事堂を襲撃した。前代未聞の出来事である。
その2日後の早朝、米軍の制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、機密回線を使って中国人民解放軍トップの李作成上将に電話をかけた。李や中国指導部が連邦議会議事堂に対する攻撃の映像をテレビで見て驚愕し、混乱していることを知ったからだ。
李はミリーに質問を浴びせた。アメリカは崩壊しそうなのか? 何が起きているのか?
ミリーは言った。「あれが民主主義の本来の性質です。私たちは100%安定しています。しかし、民主主義は時々乱雑になることがあるんです」。
ミリーは、1時間半かけて李を安心させた。だが電話を切った時、状況は深刻だと確信した。李はいつもとは違って、動揺していた。
アメリカが中国を攻撃するという懸念
実は、中国は以前、アメリカの意図を怪しんで高度の警戒態勢をとったことがあった。2020年10月30日、大統領選挙投票日の4日前に「アメリカが密かに中国攻撃を計画している」と中国が信じていることを機密情報が示していた。トランプがやけっぱちになって危機を起こし、自分が救い主になり、それを利用して選挙に勝とうとしているのではないか。そう中国は考えていたのだ。
その時もミリーは、同じ裏ルートで李に電話をかけた。そしてアメリカは攻撃を計画していないと断言し、李をなだめた。
だが、それから2カ月後の1月8日、議事堂襲撃事件によって、中国の懸念がこれまで以上に激しくなったことは明らかだった。
一触即発の状況が広がるアメリカ
トランプがいつも衝動的で予測できないことを、ミリーは間近で目にしていた。選挙の余波でトランプが精神的にかなり参っていることが、事態をさらに悪化させていると、彼は思っていた。
「何が大統領の怒りの引き金になるか、見当もつかない」と、ミリーは幹部に言った。
大統領は米軍全体の最高司令官であり、独断で軍隊を動かすことができる。ミリーは、トランプが戦争を望んでいるとは思っていなかったが、イラン、ソマリア、イエメン、シリアでやったように軍事攻撃を行う意志があるのは明らかだった。