2019年4月号掲載

限界都市 あなたの街が蝕まれる

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概要

人口減少・高齢化時代を迎えた日本。空き家が増え、団地が老朽化する中、都心部にはタワーマンションが乱立。地方都市では中心部の商店街が寂れ、郊外の大型店に客が流れる。こうした歪みがなぜ生じるのか? 日本の各都市で生じている問題に、独自取材で鋭く迫る。見えてくるのは、無秩序な開発が招く、都市機能の限界だ。

要約

タワマン乱立、不都合な未来像

 「住みたい街」ランキング ―― 。多くの住宅購入希望者は、不動産業者などが発信する都市の順位づけを、一度は目にしたことがあるだろう。

 しかし、どれほど実態を反映しているのか。ランキング上位の常連となっている、神奈川県川崎市の「新興都市」の実情を追ってみた。

早朝の駅に長蛇の列

 2018年2月の早朝。JR横須賀線の武蔵小杉駅新南改札から、駅舎を越えて数十mにわたり行列が延びていた。同駅は、通勤や通学に利用する客で首都圏有数の混雑ぶりだ。

 通勤や通学だけでなく、子どもを育てる環境も厳しい。保育所に入りたくても入れない「待機児童」の数は2017年10月時点で374人にのぼる。

 武蔵小杉はかつて工業地帯だったが、不動産開発大手が主導し、約10年前から再開発が始まった。新築された20階建て以上のマンションは11棟。武蔵小杉のある中原区の人口は、10年前の2008年と比べ15%増の約25万人に増えた。

「お隣さん」との会話なく

 武蔵小杉に、NPO法人が開催する交流会がある。仕事をリタイアした地区内のタワーマンション住民が対象だが、目立つのは「同じ地域に住む人と関わりあう場所がない」という悲痛な声だ。

 タワーマンションはその多くがセキュリティー機能の充実をうたうが、交流会の出席者は「戸建て住宅のようにお隣さんと日常的に会話を交わす機会がない」と嘆く。マンションによっては、不審者対策として「住民同士で声をかけないように」と“お触れ”を出すケースもあるという。

 住民の融和をそぐ状況を生む背景には別の要因もある。日本では通常、地域の夏祭りや自治体の広報紙の配布作業などは「自治会(町会)」単位でなされる。地域単位の交流の場であるこの自治会が、武蔵小杉のタワーマンションにはないのだ。

再開発が招く住宅過剰供給

 その理由を探るため、1991~2020年の約700件の市街地再開発事業を分析した。その結果、浮かび上がってきたのは、経済環境や人口動態の変化に伴って、日本の都市整備を担ってきた再開発事業が住宅の大量供給に偏重していく実態だ。

 5年ごとで見ると、タワーマンションを伴う事業の件数は1991~95年に全体の15%だったが、2016~20年は49%と5割にまで上昇。再開発によるタワーマンション供給は計9万2000戸と、現存する超高層物件の4分の1に積み上がる。

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