2011年10月号掲載
決定版 失敗学の法則
著者紹介
概要
創造的な仕事をするには、失敗に学ぶべし!「失敗学」の提唱者である畑村洋太郎氏が、ともすると失敗を直視せず、隠そうとしがちな私たち日本人に向け、「失敗学の真髄」を伝授する。どうして失敗は起こるのか。失敗はいかに生かすべきか。失敗学の基礎知識から具体的な失敗の活用の仕方まで、実際の仕事に役立つ失敗学の知識がわかりやすく語られる。
要約
失敗の生かし方
私は約30年間、大学で機械工学を教えてきた。その中で、指導方法をいろいろと考えた結果、行き着いたのが、「失敗」に学ぶことが物事の真の理解につながるという結論だった。
では、失敗に学ぶにはどうすればよいか? それには、次のような「失敗学」の知恵が役に立つ。
「逆演算」で失敗の〈からくり〉がわかる
失敗を生かすための第1段階は、その失敗について「どういう原因が、どんな結果をもたらしたのか」を正しく理解するところから始まる。
失敗が起きた時、目に見えているのは〈結果〉だけだ。この結果から、まだ見えていない〈原因〉を辿ることを、失敗学では「逆演算」と呼ぶ。
ここで注意しなければいけないのは、原因の取り扱いだ。多くの人は、失敗を原因と結果の2要素からしか見ようとしないが、失敗学では、原因を〈要因〉と〈からくり〉の2つに分けて考える。
つまり失敗の構造を〈要因〉〈からくり〉〈結果〉の3要素から構成されていると考えるわけだ。
2002年1月に起きた、雪印食品の牛肉偽装・詐欺事件を失敗例として考えると ―― 。
これを単純に原因と結果の2要素だけで見ると、「狂牛病問題のせいで〈原因〉、牛肉偽装・詐欺事件が起きた〈結果〉」となる。
だが、狂牛病問題で困っていた会社は他にもあり、それらの会社が全て偽装をしたわけではない。同じ狂牛病問題という原因があっても、必ずしも偽装という結果には結びつかないのだ。
一方、失敗学的に原因を〈要因〉と〈からくり〉に分けて分析すれば、この場合のからくりは「いんちきをしてでも、人より得をしたい」という雪印の企業体質、ということになる。
この、からくりの正体を明らかにすることこそが、本当の失敗の原因を究明することになるのだ。