2025年11月号掲載

ノスタルジアは世界を滅ぼすのか ある危険な感情の歴史

Original Title :NOSTALGIA:A History of a Dangerous Emotion (2024年刊)

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著者紹介

概要

ヴィンテージファッションからドナルド・トランプの「アメリカを再び偉大な国に」まで。私たちの生活には“ノスタルジア”を刺激するものが溢れている。過去を懐かしみ、昔は良かったと思う。政治やビジネス、消費をも左右するこの感情は、いかに生まれ、利用されてきたのか。歴史を辿り、その知られざる力を解き明かす。

要約

本当に「昔は良かった」のか?

 「ノスタルジア」とは、平たくいえば、過去に対するほろ苦くも甘い気持ちだ。

 ノスタルジアはある記憶について考えたり、回想したりする時に引き起こされる。そして通常それはどうでもよい記憶ではなく、個人的に意味のある懐かしい記憶である。人はその記憶から、失われた時を惜しんだり、懐かしんだりする。

ノスタルジアの歴史

 しかし、20世紀以前は、ノスタルジアは過去への憧れを意味しなかった。

 ノスタルジアの物語は17世紀に始まる。

 1688年に医師のヨハネス・ホーファーは、これを故郷から遠い戦地で戦うヨーロッパ人傭兵を苦しめる疾患と特定した。患者は思い焦がれて憂鬱症のような状態に陥り、慣れ親しんでいるが遠くにある物や場所に戻りたくてたまらなくなる。

 家を出て家事使用人となった若い女性、田舎に送られ養育される子供は、このホームシックにかかりやすかった。ノスタルジアはヨーロッパ全土に広がる感情のパンデミックだった。

 19世紀のヨーロッパでは、この謎めいた病気は無気力、うつ、睡眠障害を引き起こした。死に至る場合もあった。患者が食べることを拒絶し、緩慢な餓死を遂げるからだ。ノスタルジアという病はヨーロッパを席巻し、奴隷にされたアフリカ人を運ぶ船を介して北米にも伝播した。

死の病から無害な感情へ

 19世紀末までに、人間の感情は科学研究の対象となる。20世紀が進むにつれ、ノスタルジアの科学的研究は内科医に代わって心理学者と精神分析家が行うようになり、その過程でノスタルジアは死の病から無害な感情に変質していく。

 1970年代にはもう、ノスタルジアはありふれた存在となり、心身をおびやかすものではなく、一種の流行と化していた。

 

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