2025年8月号掲載
奪われた集中力 ――もう一度“じっくり”考えるための方法
Original Title :Stolen Focus:Why You Can't Pay Attention―and How to Think Deeply Again (2022年刊)
著者紹介
概要
今日、多くの人が集中力の低下に悩んでいる。会社ではマルチタスクに追われ、家では漫然とSNSを見て過ごしてしまう。なぜか? 世界各地の専門家を取材した著者は言う。集中力は失われたのではなく「奪われた」と。その元凶である「監視資本主義」について解説し、豊かな時間を取り戻すため、私たちがなすべきことを語る。
要約
情報量とマルチタスクの増加
ある研究で、米国の大学生が注意力散漫になる頻度が調査された。それによると、学生が1つのことに集中する時間の中央値はわずか19秒。別の調査では、オフィスで働く社会人が1つのタスクを続ける平均的な時間は、3分だった。
注意を向けるという人間の力は、急激に衰えている。その要因の多くは過去数十年の間に現れた。
どんどん上っ面だけになっていく
ツイッター上では、人々が何を、どれだけの時間話題にしているのかを追跡できる。そこでデータを分析したところ、2013年には、あるテーマが、最も多くツイートされたテーマの上位50にとどまるのは17.5時間。それが、2016年には11.9時間に減少していた。
これはツイッターに特異な現象ではない。あらゆる種類のほかのデータで、1つのトピックに集中する時間は短くなっている。
何がこの変化を後押ししているのか。それは、より多くの情報が流れていることである。
僕らは情報にどっぷり浸かっている。テレビやラジオ、読書など、平均的な人間が接するすべての情報を合計すると、1986年では毎日、新聞40紙に相当する情報量だった。それが、2007年になると1日あたり174紙に相当するほど増えた。それ以降はさらに増えているだろう。
その結果、僕らは、あらゆる物事において掘り下げることをしなくなっている。掘り下げること、深く考えることには時間がかかる。だから、僕らはどんどん上っ面だけになっていくのだ。
マルチタスクは集中力を低下させる
情報に圧倒され集中できないとして、なぜ明瞭に考えられるペースに落とそうとしないのか? それは、僕らが巨大な妄想に陥っているからだ。
脳は、一度に1つ、2つのことしか考えられない。僕らの認知能力は非常に限られているのだ。だが、そう認める代わりに、僕らは多くのことを同時に考えられるという神話を考え出した。「マルチタスク」だ。
しかし、研究によると、複数のことを同時にこなしていると自分では思っていても、実際はタスクを行ったり来たり、切り替えているだけだ。この切り替え(スイッチング)は3通りの方法で集中力を低下させる。
1つ目は「スイッチ・コスト効果」だ。別のタスクに切り替わる際、脳は前にやっていたことを思い出す必要があり、それには少し時間がかかる。ということは、メールを頻繁にチェックすると、そのメールを見る時間だけでなく、その後再度集中するために必要な時間も失っていることになる。